(更新日: 2025年12月13日 )
目次
はじめに
太陽光発電・風力発電と聞いて、みなさんはどういうイメージを思い浮かべるだろうか。
「エコ」「CO2を出さない」「環境に優しい」こんな感じではないだろうか。
私も数年前まではそういうイメージを持っていた。しかし、実際はイメージしたものとは違う。
本稿では、日本の電力系統(特に四国電力エリア)における実際の需給データを用いて、太陽光・風力といった変動型再エネが、火力発電の削減やCO₂排出削減にどの程度寄与しているのかを、 「系統運用」の観点から検証しようと思う。
需給実績を可視化してみる
四国電力の需給実績データをグラフにしてみる。
四国電力のweb pageでは直近の需給実績は可視化されているが、その他は自分で可視化する必要がある。
なぜ四国電力か。それは山奥暮らしチャンネルが四国だから、という軽い理由だ。 山奥暮らしチャンネルの加藤氏は風力発電の建設を阻止する運動を展開している(関連チャンネルは風力発電の真実 ―高知・国見山で何が起きているか―)。
グラフは日ごとで分けた。各日は二つのグラフをプロットした。
まず、需要に対する太陽光発電・風力発電が分かるグラフ、もう一つは需要に対する化石燃料系の発電量が分かるグラフである。
なお、四国電力は供給量が需要を上回る時があり、この場合は他の地域(電力会社)に融通している。
ここでは、晴天日・曇天日・中間的な日として、10月3日・5日・30日を例に示す。
2025年10月3日

この日は太陽光発電が非常に少ない。もともと風力発電は多くないのだが、他の日と比べるとこの日は風力発電が若干多めである。
2025年10月5日

太陽光発電がそこそこ多い日。
ただ、10月では18:00過ぎると発電はなくなる。
したがって、再エネ以外の発電に頼らざるを得ない。
2025年10月30日

正午前には太陽光発電が需要の大部分を賄える。
グラフから直感的に分かる通り、再エネ比率が高い時間帯でも、火力発電はおよそ1GW以下には下がらない。 これは、需給調整・周波数維持のための最低出力制約 (ミニマムロード) が存在するためである。
一方で風力発電は日中はほとんどない。また18:00以降でも風力発電は非常に少ない。
太陽光発電も風力発電も6:00以前、18:00以降はほぼゼロなので化石燃料による発電が欠かせない。
再エネの発電挙動
太陽光発電と風力発電の発電挙動をまとめてみよう。
太陽光発電は正午ごろにピークを持つが、およそ9:00から15:00までの6時間程度しか発電できない。 また、日によってはほとんど発電しない。お天気まかせである。
風力も日によって発電量が大きく違う。こちらも天気次第である。
再エネの発電挙動から分かること
このように太陽光発電・風力発電ともに、発電したりしなかったりで甚だ頼りない。
これが、これら「再生可能エネルギー」の姿である。
一方の需要は再エネの発電量ほどは大きく変動することはなく、あるレンジに収まている。 これは、ほぼ一定の需要があるのに対して、再エネは応えられたり、応えなかったりする気紛れな電源だということだ。
だから再エネの発電にはバックアップが必須である。こうした気紛れな電源を補う電源が必要なのである。 そして、再エネの変動に素早く対応できるのは、火力発電しかないのが現状である。
つまり、再エネを増やせば増やすほど火力発電への依存度も同時に増すということだ。だから期待するほどCO2が減ることはないし、火力発電所を減らすことは出来ない。
以下にもう少し詳しく解説しておく。
山間の風力発電、太陽光発電が、火力発電などの削減に効果がない理由
山間部(山あい)に設置された風力発電や太陽光発電が、火力発電の削減にあまり効果を持たない理由はいくつかある。 以下の観点から整理しておこう:
1. 出力の変動が大きく「安定電源」にならない
山間部では、風の強さや日射量が大きく変化する。
– 風力発電:風速が少しでも弱まると出力が激減し、台風など強風時には逆に停止する。
– 太陽光発電:天候(曇り・雨・雪)や時間帯(日没・夜間)で出力が大幅に変化する。
このため、瞬間的な電力供給を予測・制御しにくいという問題がある。
電力は「需要=供給」が常に一致していないと周波数が乱れ、停電につながるため、発電量の不安定な再エネだけでは電力系統を維持できない。
2. 火力発電は「バックアップ」として稼働し続ける必要がある
上記の理由により、火力発電は再エネの穴を埋める調整役として常に待機する必要がある。
つまり、風力や太陽光が発電していない時間帯(夜間や無風時)に即座に出力を上げるため、火力発電所を「完全停止」にはできない。
多くの場合、火力発電所は次のような「非効率運転」を強いられる: – 再エネが多い時間帯 → 出力を絞る(効率低下) – 再エネが減る時間帯 → 出力を急上昇(燃料消費増加)
結果的に、燃料消費量やCO₂排出は大きく減らない。
3. 山間地は送電コストとロスが大きい
山間部の再エネは都市部から遠く、送電ロス(距離による電力損失)が増大する。
また、送電線や変電所の建設・保守にも多額のコストがかかり、電力の「純供給量」は思ったほど増えない。
これにより、経済効率の観点からも火力発電を完全に置き換えることが難しくなる。
4. 出力制御(カット)による実質的な非稼働
近年では、天気が良く発電量が増えた際に系統側が受け入れきれず「出力制御(再エネカット)」を行うことが増えている。
特に九州・北海道・中部の山間部などでは、晴天が続くと太陽光が余って発電しても捨てられる状況が頻発している。
つまり、「発電量が多い=火力削減」ではなく、「発電量が多すぎて無駄になっている」ケースも多いことになる。
5. バッテリーや水素など蓄電技術が未成熟
もし大量に発電した再エネを蓄えて使えるなら、火力をもっと減らせる。
しかし、現在の蓄電池(リチウムイオンなど)は容量・コスト・寿命の面で制約があり、夜間や数日分をまかなう規模の蓄電は現実的でないため、結局火力が必要になる。
まとめ
| 原因 | 説明 |
|---|---|
| 出力が不安定 | 天候・時間帯に左右されるため、電力の安定供給が困難 |
| 火力発電のバックアップが必要 | 再エネの変動を補うため常時稼働を維持 |
| 送電コスト・ロス | 山間部から都市部までの長距離送電で効率悪化 |
| 出力制御 | 系統が受け入れきれず再エネを「捨てる」状況 |
| 蓄電の限界 | 大規模蓄電がまだ経済的・技術的に難しい |
結論
問題の本質は、再エネの「環境性」ではなく、「制御可能性」にある。 系統運用上、制御不能な電源が増えるほど、制御可能な電源(=火力)を常時確保せざるを得ない。
山間の風力・太陽光発電は「環境に優しい電力」を生み出してはいるものの、電力系統全体としては火力発電を置き換えるだけの安定性・効率を持っていないため、現状では火力削減効果が限定的。
風力・太陽光発電が増えると、需給調整の要求が増大し、かえって火力発電への依存性が強まる
風力・太陽光発電(いわゆる「変動型再エネ」)が増えるほど、電力の需給調整が難しくなり、結果として火力発電(特にガス火力)への依存度がむしろ高まるというのが、現実の電力システムの動きである。 以下に整理しておく:
1. 再エネは「発電量が制御できない」電源
風力や太陽光は、天候と時間に支配される電源。
– 発電量が急増(晴天・強風)したり急減(曇り・無風)したりする。
– 電力需要のピーク(夕方など)と一致しないことが多い。
このため、電力会社は「常に予備の調整力」を持っていなければならず、再エネの比率が高いほど調整の負担が指数的に増大する。
2. 調整の主役は「火力発電」
現状の日本を含む多くの国では、需給調整(出力を増減させる役割)を担っているのは火力発電。
- 原子力・地熱:出力を急に変えられない(ベースロード電源)
- 水力:調整できるが、総量が限られている
- 火力(特にLNG火力):出力を柔軟に上下できる
つまり、再エネの変動を吸収するためには、火力を常に動かしておく必要がある。
これが「再エネが増えるほど火力への依存が高まる」構造の核心。
3. 火力の「非効率運転」による逆効果
再エネが大量に発電している時間帯には、火力発電を抑制するが、
その後、太陽が沈む・風が止むといったタイミングで急激に出力を戻す必要がある。
この「上げ下げ」を頻繁に行うと: – 燃料効率が悪化(スタート・ストップでロス発生)
– CO₂排出が増加
– 設備の寿命が短縮(機械的ストレス増)
つまり、燃料消費やコストがむしろ増えるという逆効果が生じる。
再エネの発電量が増えても、火力の稼働時間は減っていないというデータが実際に各国で観測されている。
4. ドイツ・カリフォルニアの実例
ドイツやカリフォルニアでは、再エネ比率の上昇とともに、ガス火力による調整運転が増加していることが複数の報告で示されている。
ドイツ
- 再エネ比率が50%を超えるが、ガス火力・石炭火力が依然として稼働中。
- 変動の大きい太陽光・風力を支えるために、ガス火力の「調整用稼働」がむしろ増加。
- CO₂削減が想定より進まず、「再エネ+火力のセット運用」が常態化。
カリフォルニア
- 昼間の太陽光発電が急増し、「ダックカーブ(夕方に火力が急上昇)」が発生。
- 火力発電を一旦絞っても、夕方に急速に立ち上げる必要があり、燃料効率が大幅低下。
5. 対応策と限界
対策としては次のようなものがあるが、まだ限定的。
| 対策 | 現状・課題 |
|---|---|
| 蓄電池 | コスト・容量が不足、長時間蓄電は非現実的 |
| 水素・アンモニア火力 | 技術途上・燃料供給体制が未整備 |
| 需要側調整(デマンドレスポンス) | 一般家庭・産業の協力が必要で普及が遅い |
| 系統連系(広域送電) | 地域間での融通強化中だが、インフラ投資が巨額 |
結論
再エネ(特に風力・太陽光)が増えると:
電力の変動が激しくなる
その変動を吸収するために火力発電が常時稼働する
結果的に、火力への依存度がむしろ強まる
という「パラドックス」が起こる。
少なくとも、現行の日本の系統構成および蓄電技術の水準においては、風力・太陽光の導入量が増えるほど、需給調整を担う火力発電への依存度はむしろ高まる。
これを解消するには、大規模蓄電技術や新しい系統制御の発展が不可欠。
おわりに
再エネ関係の論文では導入部分で「カーボンニュートラルのために…」などという文言が踊る。
上で見てきたように、太陽光発電・風力発電のように変動する電源は火力発電とセットでのみ稼動できる。
したがって火力発電所を減らすことは決してない。
「蓄電を増やせば良いじゃないか」と考えるかも知れない。 それはその通りだが、蓄電はコストが高く、また火力発電所を代替できるほどの大規模の蓄電所は現実的ではないだろう。
電力の問題は技術論だけでは不十分で、経済性を抜きには議論できない。
なお、本稿は「系統連系」の観点でのみ議論した。太陽光発電・風力発電の製造・設置による「環境負荷」も無視できない。それについては別途検証してみたい。

















