うま味調味料が身体に悪いという説はいつ頃からなのか調べてみた

はじめに

料理研究家のリュウジ氏が「こんな体に悪いの使うなんてとかってよく言われるけど何年前の話をしているんだ」「(味の素が)体に悪いって言う人は笑ってあげましょう」 と言っているのを見て、「うま味調味料が体に悪いという主張はどれくらい前からなのか」と疑問になって調べてみた。

その話をしているのはこの動画。

以下でMSGというのはグルタミン酸ナトリウム(monosodium glutamate)のことを指す。

味の素による安全性に関する情報

味の素が公開している情報で「安全性対応と国際展開」というpdfがある。

それによれば、だいたい以下のことがネガティブに働いたと読める(これがだいたい50年以上前のこと):

  • オルニー証言とメイヤー勧告

    1969年10月23日、ニクソン大統領の栄養問題担当顧問のメイヤー博士は、全米婦人記者クラブの記者会見で、ベビーフードにはMSGを使用しないよう勧告した。これがいわゆる「メイヤー勧告」である。この勧告は、1969年7月にオルニー博士がアメリカ上院の栄養・食品委員会(マクガバン委員会)で行った証言を採用したものであった。オルニー博士は、“Science”1969年5月9日号に発表した、マウス新生仔へのMSG投与(0.5 ~ 4mg/g体重を皮下注射)による脳視床下部損傷発現という実験結果に基づいて、ベビーフードへのMSG使用は中止すべきであると証言したのである。

    メイヤー勧告とオルニー証言は、10月24・25日に日本の新聞でセンセーショナルに報道され、日本の消費者に大きな衝撃と不安を与えた。日本化学調味料工業協会は、ただちに見解を発表した。①オルニー実験は並外れて多量のMSGを注射で与えたもので、この結果を調味料として使用されるMSGに適用することは全く誤りである。②日本でのMSGの使用量は、加工食品中に使用されている量を含めて、1日1人平均2gを経口摂取しているに過ぎない。

    しかし、アメリカのベビーフードメーカーは自主的にMSGの添加を中止し、日本のメーカーもそれにならった。この報道およびその影響は、日本だけでなく他の国々へも波及した。

  • 中華料理症候群と結び昆布問題

    日本でも、1971年から1972年にかけての一時期、中華料理や酢昆布を食べて頭痛や手足の痺れを感じ、保健所に届け出る人がいた。酢昆布や結び昆布という味付け昆布をめぐる問題は、中華料理店症候群と同様に「中毒事件」として報道された。東京都衛生局が問題となった酢昆布を検査したところ、実に45%ものMSGを含むものさえ検出された。一部の結び昆布・酢昆布業者が、昆布の価格騰貴のため、MSGを増量材として大量に(25 ~ 45%)添加していた、というのが事の真相だった。含有率が45%の酢昆布を30g食べると、13.5gのMSGを摂取することになる。「味の素」食卓瓶の一振りの分量は0.05gだから、常識では考えられない量であった。ラーメンやワンタンのスープでも、最高で1.6%、つまり1杯分に約3gのMSGが使われていた。

その後の企業努力は読むと涙がでそうになる。

グルタミン酸の安全性解明のための国際協力体制を作っている:

1970年9月に東京で開催された世界MSGメーカー会議では、国際グルタミン酸技術会議(IGTC)の結成を決め、安全性解明のための国際協力体制を作った。IGTCと味の素社が働きかけた結果、WHO / FAO合同食品添加物専門家委員会(JECFA)は1971年と1973年6月にMSG問題を再検討し、「MSGの許容1日摂取量120mg/kg体重」の除外を1歳未満の乳児から12週未満の乳児に緩和した。この修正は、MSGの安全性の幅を広げたものであった。

最終的な結論が出されるのはメイヤー勧告から10年以上経過してから:

1980年4月30日、「MSGは現行使用レベルで食品添加物として安全である」との内容が、改訂した最終結論としてFDAに提出された。FDAはこの最終結論を5月6日に公表した。通常使用レベルで安全というこの平凡な結論が、実質的な「MSG安全宣言」として、千鈞の重みをもってMSG業界に歓迎されたのは言うまでもない。さらに、1973年6月にMSG安全性問題を再検討したJECFAも、1987年に至り、「グルタミン酸ナトリウムは、人の健康を害することはないので、1日の許容摂取量を特定しない」との最終結論を公表した。

40年以上前にMSG安全宣言が出されている。 そして35年以上前に「グルタミン酸ナトリウムは、人の健康を害することはないので、1日の許容摂取量を特定しない」とされている。

ということで、30年以上も前に安全性については決着している。

化学調味料

「味の素®」は何故、むかし化学調味料と呼ばれたの? | ストーリー | 味の素グループによれば商標を出さないために当時はポジティブな意味あいで「化学調味料」と呼ばれたとある。

現在、うま味調味料「味の素®」は世界の国々で親しまれていますが、過去に”化学調味料”と呼ばれていた時代があったのをご存じでしょうか?

それは、1960年頃に公共放送の料理番組で商品名(登録商標)を出すのを避けるため、「味の素®」の一般名称として”化学調味料”という呼び名が使用されたのがきっかけでした。当時は”化学万能”の時代でもあって”化学”という言葉はとても先進的な良いイメージだったのです。

しかし”化学”という言葉は、公害問題の発生など時代の変化と共に受け取られ方が変化し、そのうちネガティブなイメージにつながる事例が発生しました。その後1980年代には、この名称はうま味を加えるという商品の機能を正しく示すものでは無いという事で、”うま味調味料”という名称に変更されています。

美味しんぼでも「化学調味料」という単語が使われているが、美味しんぼはうま味調味料に否定的な立場なようで化学調味料は悪い意味あいで使っていることが多いと思われる。 (ちなみに美味しんぼはハチミツをゼロ歳児に与えることを肯定するなど、不完全な知識でベースに描かれている部分が指摘されている。 例えば美味しんぼの嘘知識や矛盾点をまとめつつ色々考えてみる | 質問の答えを募集中です!)

その後の研究など

ただし、今だに「体に悪い」と思い込んでいる、もしくは「怪しい」という人や学者はいるようで、MSGに関する議論は終わっていないという論文もあるようだ。 たとえばFact or Fiction? The MSG Controversy。 (あまり真面目に探していない。)

まだまだ研究は続いているようで “Review of Alleged Reaction to Monosodium Glutamate and Outcome of a Multicenter Double-Blind Placebo-Controlled Study1,2” というタイトルの論文https://doi.org/10.1093/jn/130.4.1058S のアブストラクトはこんな感じ:

グルタミン酸ナトリウム(MSG)は、長い間、風味付けとして食品に使用されてきた歴史があります。米国では、食品医薬品局はMSGを一般に安全と認められるもの(GRAS)に分類しています。しかし、MSGが何らかの反応を引き起こすかどうかについては、現在も議論が続いている。中華料理摂取後の複合的な症状は、1968年に初めて報告されました。MSGがこれらの症状を引き起こすことが示唆され、これらは総称して「チャイニーズレストラン症候群」と呼ばれた。最初の観察が行われた後、数多くの報告がなされたが、そのほとんどは逸話的なものであった。それ以来、多くのグループによって臨床研究が行われ、実験デザインの厳密さは、非対照のオープンチャレンジから二重盲検プラセボ対照(DBPC)試験までさまざまである。MSGに対する副作用を報告した被験者のチャレンジは、比較的少数の被験者を含み、MSGに対する有意な反応を示すことができなかった。一般市民を対象としたMSGに関する調査や臨床試験の結果では、有害な影響を示す証拠はない。私たちは最近、MSGを摂取して症状を訴えた被験者の反応を分析するため、130人の被験者(これまでで最大)を対象に多施設共同DBPCチャレンジスタディを実施しました。その結果、MSGに有害な反応を示すと考える個人において、食事なしで大量に投与されたMSGは、プラセボよりも多くの症状を誘発する可能性があることが示唆されました。しかし、その頻度は低く、報告された反応も一貫性がなく、再現性がなかった。MSGを食物とともに投与した場合には、この反応は観察されなかった。

おわりに

今だにオルニーの実験やメイヤーの勧告を根拠にベビーフードにMSGを入れてはだめ的な主張のページはある。 人は信じたいものを信じる。残念ながらいったん信じたものを捨てるのは難しい。

そして人を信じ込ませるなら、なるべく分かりやすくセンセーショナルな結果があれば良い。 西浦博のようにセンセーショナルに有名になる方法は実はちょうど良い前例があったというわけだ。

そもそもグルタミン酸という時点で、昆布・トマトなどに含まれるアミノ酸である。 似た成分は、かつお・煮干し・肉に含まれるイノシン酸、きのこに含まれるグアニル酸がある。 グルタミン酸だけが悪者になる考えはどこから生まれるのかは興味深い。

自分はうま味調味料は大好きなので、多めに使ってしまう。 だが痺れるなどの感覚があったことはない。

近所のスーパーなどでは、ハイミーは詰め替えは売っているのだけど容器の商品がなかなか見つからない。 結局Amazonで買った。

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