高校の時の音楽の先生が鍵盤ハーモニカの発明者であるという噂がまことしやかに語られていて、今でもSNS上で話題になる時があります。 その真偽を確かめてみました。
結論から言うと、ピアノ式の鍵盤ハーモニカはイタリアのClaviettaが発祥のようです。 これは1958年説があるくらいで、ぼくの高校の先生が絡んだ可能性はないでしょう。
国産のピアノ式鍵盤ハーモニカとしては鈴木楽器のメロディオンがあります。 これの一号機は1961年のようですが、独立に発明したのか、Claviettaを知ってて開発したのかはよく分かりません。 鈴木楽器のwebページは「世界で最初のピアノ式鍵盤ハーモニカ」と主張しているようですが、少し無理がある気はします。
ぼくの高校の先生が絡んだのであれば、この鈴木楽器か東海楽器ですがネット上では証拠は見つかりませんでした。
ちなみにピアノ式鍵盤の鍵盤ハーモニカの特許は、鈴木楽器・東海楽器ともに取得していない模様です。
目次
特許調査
発明者というならば、まずは特許が出ているのかが気になります。
特許情報プラットフォーム 特許・実用新案分類検索 で特許を調べてみました。
鍵盤ハーモニカのテーマコードは5D050,FIはG10D7/12,120 らしいので、これらを使って検索します。
上記ページでコードに 5D050, 検索式に G10D7/12,120 とだけ入れて期間を限定せずに検索したら30件 あります。
ぼくの高校以前ということでざっくり1990年以前は14件。1947年から関連特許はありますね。
残念ながら高校の時の先生の名前はありませんでした。ちなみヤマハ名義の特許は5件ありました。また外国のメーカーの出願はありませんでした。
鍵盤ハーモニカの歴史
Wikipediaの 鍵盤ハーモニカ によれば、吹き込んだ息で金属リードを鳴らす鍵盤楽器は19世紀から存在したようです。
ピアノ式の鍵盤ハーモニカはClaviettaが最古参のようです。
素晴らしき鍵盤ハーモニカの世界 カタログ にClaviettaの写真があります。TVアニメ「ハルチカ」でのClavietta(クラヴィエッタ)登場シーンについて (ピアノニマス.com) によれば1958年、1959年モデルのClaviettaをお持ちの方々がおられるそうなので、鈴木楽器よりは早い時期に作られていたことは確定のようです。
鍵盤ハーモニカと言えば、世界的には”Melodica”らしい
世界的に見ると、鍵盤ハーモニカのことをHohner社商品名の”Melodica”と呼ぶことが多いようです。
また、 MELODICA FAMILY によれば鍵盤ハーモニカには二つの系統があるようです。
一つは両手を使うボタン式で、右手で白鍵、左手で黒鍵を押さえるタイプ。管楽器や笛に近い演奏スタイルになりますね。
もう一つはピアノやオルガンのような鍵盤の配列(いわゆるピアノ式鍵盤)。日本で鍵盤ハーモニカといえば、こちらがポピュラーです。
HohnerのMelodicaはもともと両手を使うボタンタイプだったようです。現在は鍵盤式のハーモニカを作っているようです。
The First Hohner Melodica and Clones日本での鍵盤ハーモニカの発祥は浜松らしい
楽器のまち浜松市のページで 浜松生まれの楽器“鍵盤ハーモニカ” では
1961年(昭和36年)、鈴木楽器製作所創業者の鈴木萬司氏が、卓上に置いて演奏できる吹奏楽器というアイデアのもと、オルガンよりも経済的で鍵盤学習に最適な教材として、世界初の鍵盤ハーモニカを開発しました。
とあります。これが鈴木楽器のメロディオンの誕生のことを言っているのでしょう。 鈴木楽器のページ 鍵盤ハーモニカの始まり にも同様の記載があります。
ただ、上記のようにClaviettaがあるので、「世界初」は苦しい気はします。世界初を主張するならエビデンスが欲しいですね。
なお、 “ふじのくに”先人の偉業と先輩が築き上げてきた伝統 には“鍵盤ハーモニカ”1号機の写真があります。これはマウスピース部分が下記のHohner社のMelodicaを彷彿とさせます。偶然かも知れません。
鈴木楽器のインタビューでも、ぼくの高校の先生に関する話は全然ないので、どうもガセネタっぽい気はします。 鈴木楽器のインタビューが不誠実という可能性もゼロではないですが…。
特許調査では、このメロディオンに関すると思しき鈴木楽器の特許は見つかりませんでした。
ちなみに日本で最初に鍵盤ハーモニカを開発したことについては、 日本で初めて鍵盤ハーモニカを開発したのはどこなのか問題について (ピアノニマス.com)で調べられています。鈴木楽器も東海楽器も1961年を主張しているようです(笑)。まあいずれにしても、浜松の会社なので、日本の鍵盤ハーモニカの発祥は浜松といって良いのでしょう。
おわりに
鍵盤ハーモニカが浜松市発祥とか、高校の先生が開発者とか言っているのは浜松市やぼくの高校関係者だけのようです。
こんな話題をSNSで上げても高校の同級生の反応は芳しくなさそうですな…。
お返事いただけ大変うれしいです。
おそらく物をつくる職種ではない場合に、「開発」という言葉はいかようにも定義されてしまうというか、たとえばおっしゃるような「アドバイザー」といった立ち位置でも、ざっくり「作った人」とされてしまう背景があるかもしれませんね^^;
Gordiusさんのブログ記事の書きかたというか、検証の進め方に、すごく好感を抱いています。また、ブログタイトルのパロディにも知的なセンスを感じます。
少し畑は違いますが、今後もブログウォッチさせてください^^
なんだかたくさん褒めいただいて、とてもうれしいです。ありがとうございます。
最近ネタに迷っていまして、ご期待に沿えるかどうか自信はないですが(汗)、今後とも生温かく見て頂ければ幸いです。ww
とても良い記事で楽しく拝読させていただきました。また、稚拙なブログをご引用くださりまして、お恥ずかしい限りです。
高校の先生のお名前はご存じありませんが、私が考えている「WEB記事などで一部に名前や写真があがっているが、開発に携わったという根拠や客観的事実が不安定なあのお方」のことかなとご察ししております。
様々な企業・メーカーの方などにインタビューを重ね、そのお方が本当はどういうポジションだったのか、という研究をした資料がありますので、もしメールいただければ共有させていただきます。ちなみに私の「開発」の定義とは、やはり実際の設計(パースとか書いた)をした人、手を動かした人なんじゃないか、と考えています。
長々とコメント失礼いたしました。
コメントありがとうございます!
開発の定義は南川さんの書かれている通りだと思います。
正直に言えば、高校の先生が片手間で開発できるとは考えにくいのです。
特にリードやボディを調整するのは個人では無理だと思います。金属加工や金型の知識が必要です。
「開発に関わった」と言える状況があるとすれば、どこかの企業との何らかの共同作業しかないと思います。
どの程度主導的か、というのが大事なのかなーと思います。
ここからは下種の勘繰りですが、楽器メーカーが教育用の楽器開発で音楽の先生の意見を求める状況は容易に想像できます。
音楽の先生が鍵盤ハーモニカの詩作品にコメントしたり、アドバイスすることはあったでしょう。でも、ぼくはそれを「開発者」とは呼べないと思っています。
件の噂の出処は分かりませんが、開発品へのコメントやアドバイスを「盛って」言った人がいるというのが真相なのかな、と思っているところです。誰がとは分かりません。
南川さんの想像されているお方とぼくの高校の先生は同じかも知れません。
お申し出は大変興味がそそられますが、ぼくとしては先生に特別な感情がないままの方が良いかとぎりぎりの理性が働きまして、今回はお見送りさせていただきます(笑)。