離職率が低いのは良い会社か

以前ある会社を転職エージェントに紹介されて「この会社は離職率が低いんですよ」と言われたことがある(当時は転職を意識していなかったのだが)。 その時は「ほほう、それは良い会社なのかも知れない」と無邪気に思ったものだが、さて本当にそうなのか。

答えから言うと「それは会社による」と思う。

どういうことかと言うと、日本的な会社と欧米(とくにアメリカ)の会社では離職の考え方が違う。 だから離職率云々は、日本的な会社か欧米的な会社かで善し悪しの捉え方は違うということだ。

日本的な会社と欧米的な会社の大きな違いは、日本的な会社では勤続年数が増えるとともに役割が変わるの対して、欧米的な会社では「役割」に対して雇われているので、基本的に「役割」は変わらない点だ。

具体的に言えば、多くの日本の会社(に限らず日本の組織)では、新入社員で入り、主任や係長(会社によって呼び名は違う)になり、課長・マネージャー、部長・GMになったりする。 一方で欧米の会社では昇格はあるが、基本的にマネージャーのポジションが空いたなら外からマネージャーを雇う。 例えば管理職以外のポジションと管理職とでは要求されるスキル・知識が異なるという考え方が欧米の組織の基本だ。

さて「離職率が低い」と良いのはどういう会社なのか。

日本的な会社であれば、長く勤めて徐々に責任が重くなるキャリア・パスがある。 だから離職する人が少ないというなら、その会社で長く働いて貢献したいと考える人が多いのだと一般的には言える。 そのようなキャリア・パスがあって「こんな会社に長く居たくない」という人が少ないならば、一般的には良い会社・組織と言える。

一方で欧米的な組織で離職しないとどうなるのか。下手すれば10年以上同じ仕事をすることになる。 それを「楽で良い」とするか、「罰ゲーム」と思うか、それほどでなくてもキャリア・アップを望むか、は人それぞれだ。

では組織としてどうか。10年間マネージャーが変わらない部署、10年間ほとんど顔ぶれに変化がない部署が起こり得る。 (人がどんどん増えている時期は良いかも知れないが、それも永続するわけではないだろう。) まあ、そんな状態では離職者は出てくると思うので、実際にはもう少し入れ替わりがあるだろう。 しかし、組織としてはドンヨリと澱んている部類だ。

本来、欧米の会社はキャリア・アップしたければ転職するというのが普通だ。だから離職者が定常的にいる。 キャリア・アップのための離職者がいることが悪いかと言えば、そうとも言い切れないわけだ。 ということを考えてみると、その会社内でキャリア・パスがあるなら離職率が低いのは良いと言えるかも知れない。

てなわけで「離職率」という指標だけで会社の善し悪しは計れない。 もう少し慎重に捉えるほうが良いと思う。そして、その会社の善し悪しを飛び付きやすい一面だけで判断するのは危ない。

上記の「欧米的」な組織の内情は自分が知る範囲で書いている。 実際には上記と違う部分はあるかも知れないが、そんなにずれてないと思う。

さらに加えておくと、「離職率」は「◯年離職率」のように考えるのが本当なのかも知れない。 まあ、転職してもすぐに離職してしまうのは、日本的な組織でも良いことではない。 上で書いたのは、その手のすぐに離職する場合ではなく、ある程度定着してからの離職率のことを書いている。