想像力の欠如と読書

自分が良く見るチャネルの一つに謎解き統計学 | サトマイがある。 このチャネルで「【読解力?】ごんぎつねが読めないこどもたち」という動画がある。

この動画では小学校の国語で定番の「ごんぎつね」、「一つの花」を小四が読んだ時の解釈について紹介している。

エピソード

ごんぎつね

ごんぎつねでは

よそいきの着物を着て古紙に手拭いを下げたりした女たちが表のかまどで火を炊いている。 大きな鍋で何かぐずぐず煮えていました。
というような描写がある。この描写に関して、「葬儀で村の女性たちが大きな鍋で煮ているものは何でしょうか」という問いへの答えが
  • 「兵十(ひょうじゅう)の母の死体を消毒している」
  • 「死体を煮て溶かしている」

かなりグロテスクな場面を想像したようだが、完全に「あさって」ということでもない。

というのも、日本の生死観として、死は「穢れ」に通じていて、葬式から帰ってくると塩を清めとして振りかけたする。 消毒するという発送はもしかすると、ぼんやり「穢れ」を意識したせいかも知れない。 あるいはコロナ騒ぎでは御遺体と対面できない場合もあったことを知っていたのかも知れない。

ただ「遺体を鍋に入れて消毒する」場合や「遺体を煮て溶かす」場合の鍋の大きさは、家庭で使う一般的な鍋では無理がある。

遺体をバラバラにするなら有り得るが、仮にも「お葬式」をやる場合はバラバラにする発想は「ヤバい」。 一般的にご遺体をバラバラにするのは、死んだことすら隠蔽するために秘密裏に遺体を処理する場合だろう。 だから葬式の場面で「遺体を煮る」のは「何か変」と思うのが普通の感覚なのだが、妄想が暴走したようだ。

今回のように小四では身近で人の死を経験したことがないのは、仕方ない面はありそうだが、テレビ・マンガ・映画・小説などでの描写も少ないのかも知れない。

一つの花

「一つの花」では父親が娘にコスモスを手渡した理由について聞かれた答として

  • 「駅で騒いだ罰として(ゴミ捨て場のようなところに咲く)汚い花をゆみ子に食べさせた」
  • 「このお父さんはお金儲けのためにコスモスを盗んだ。娘にそのコスモスを庭に植えさせて売ればお金になると思ったから」

などがあったとのこと。

「汚ない花を食べさせた罰」というのは、この「ゆみ子」に腹を立てて読んでいる。

「コスモスを盗んだ」というのは作者がわざわざ設定している「ゴミ置き場のような場所に咲いている」状況を無視している。

想像力以前に読解が弱いように思える。(実際、動画の後半では日本の子どもの読解力は低下しているデータの紹介がある。) いや、こんな解釈をする子はマンガを読んでも理解できるか怪しい。

読書が有効だが…

この動画のエピソードは最初は笑ってしまったが、いい歳こいて世間知らずだったり一般常識が足りない人は身近にもいる。

基本的には母国語で思考したり知識を咀嚼するから、日本語が貧弱な人は思考や知識も貧弱になる。 例えば、思考のバリエーションが少なかったり表現できなかったり、自分や相手の気持ちのバリエーションを表現したり理解できない。

母国語を鍛える方法の一つは読書ではある。

読書が有効とのことだが、そもそも読書しない人は多いと思う。

(統計にもよるが、) 自分の肌感覚としては周囲の半分以上は本を読まない人だと思う。 たとえば、この日経の調査は自分の感覚に近い。

20~60代の半数、月に1冊も紙の本読まず 全国調査 – 日本経済新聞

別の統計だと全く読まない人が10%以下というデータもあるが(Job総研による『2021年 秋の読書実態調査』を実施 増えた自宅時間背景に4割が読書時間増 8割が習慣的に読書|ライボのプレスリリース)、これは信じがたい。

「家に本棚がない」と言う人も身近いるから、本を読む習慣がないことを恥ずかしいとも思わない文化は醸成されていそうだ。 (この人は仕事に関するインプットはしているようだが。)

実際、40歳過ぎても使う日本語が稚拙な人はかなり多いし、それを気にする人は少ない。こういう無知は強くて良いねと羨ましいかぎりだ。

読書の習慣

動画の後半では読書量と読解力の関係について紹介している。

読み方とアウトプットの話は参考になると思うが、前半の珍回答の例から言えば、今どきの日本人はそもそもの読書量が足りないと思われる。

以前の職場では折に触れて、開発のトップが読んだ本の紹介をしてくれた。 「この人はこういう本を読むんだ」と勉強にも刺激にもなる。 こういう人達はインプットが大事と理解しているから殺人的に忙しくてもインプットを怠らない。

ゆる言語学ラジオの二人も語彙や表現についての向上心は旺盛だ。

こういう人々と、インプットを重視しない人の違いは何なのか、ずっとモヤモヤしている。

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