制御工学でよく目にするものに”Riccati”の方程式というものがあります。
\[ \boldsymbol{P}\boldsymbol{A} + \boldsymbol{A}^\mathrm{T}\boldsymbol{P} – \boldsymbol{P}\boldsymbol{B}\boldsymbol{R}^{-1}\boldsymbol{B}^\mathrm{T} \boldsymbol{P} + \boldsymbol{Q} = \boldsymbol{O} \]みたいな式です。
これを「リカッチ」と書いている日本語の本が多い! アルファベットから素直に読めば「リッカチ」なのに。
ネットを調べても似たような感想を持つ人は少なくないようですね:
「リッカチ」か「リカッチ」かは、昔からネットでの質問も時折見る。カタカナで原音を表記するのは不可能である、という意見もあるが、用語を決めておくのも研究者の務めとも思っている。むろん、「超伝導」「超電導」のように基本用語が割れることも多いので完全統一は不可能である。(続
— Paul Painlevé (@Paul_Painleve) December 11, 2014
Riccatiの場合、昔から用語の不統一は気になっていたが、数学では「リッカチ」が普通である。いろいろ調べて藤原松三郎の「誤植」について、今では超幾何系周辺の専門家の間では知られるようになった。応用系では帆足竹治「工業数学・微分方程式」(1936)が、すでに「リカッチ」である(続
— Paul Painlevé (@Paul_Painleve) December 11, 2014
ちなみにWikipediaもすでに「リッカチ」になっている。
あと、リカッチをイタリア語風に”Ricatti”にすると「恐喝」と意味になるようです。恐喝な方程式とかマジでやめたほうが良い。
そうは言うものの
しかし、工学部、特に制御系で広まってしまった「リカッチ」を今更変えるのは難しいのかもしれない。行列型リッカチ方程式(例えばhttp://t.co/e3SmvNe9SN)は、応用上いろんな分野で表れ重要であるが、その解の性質は個別に調べるしかなさそうので、研究が終わりそうもない(続
— Paul Painlevé (@Paul_Painleve) December 11, 2014
とあるように、確かにいまさら変えるのが難しいという考えがあるのは、まあ気持ち的には理解はできます。
川田昌克著「MATLAB/Simulinkによる現代制御入門」(p160)にいたっては
“Riccati”の発音は”リカッチ”よりも”リッカチ”の方が近いが、”リカッチ”と記している邦書の方が多いため、本書でもこれに従うことにする。
なんて書いてあります。確信犯! 分かっているけど、直さない。誰に忖度しているのか…。
もう、しれっと正しい「リッカチ」にしてしまえば良いと思います。戦前からの間違いなんて何を大事にしているのでしょう。 読者も「あれ」と思うかもしれませんが、気付かない人の方が多いんじゃないかな。
そもそも、間違っていると分かっているのに慣習で直さないのがカッコ悪いじゃないですか。
2020-08-03追記
調べられる範囲で制御工学の専門書の表記を調べてみました。
リッカチは少ないですね…。
リッカチ | ||
実践ロバスト制御(平田光男著) | ||
カルマンフィルタの基礎(足立修一・丸田一郎著) | ||
リカッチ | ||
システム制御理論入門 (小郷寛・美多勤著) | ||
モデル予測制御(Maciejowski著 足立修一・菅野政明訳) | ||
MATLAB/Simulinkによる現代制御入門(川田昌克著) | 著者は他の邦書の慣習にしたがって、あえてリカッチにしている | |
現代制御理論入門(浜田望・松本直樹・髙橋徹著) | ||
非線形カルマンフィルタ(片山徹著) | ||
新版 応用カルマンフィルタ(片山徹著) |