エリック・ジョンソンのストラト回路を検証|0.1uFコンデンサーと300kポットの効果

(更新日: 2025年8月25日 )

エリック・ジョンソン(以下ではEJ)は「ヴァイオリン・トーン」と形容される美しいサウンドをストラトで奏でることで有名だ。

彼は常識にとらわれないセッティングをすることでも知られている。 特にピックアップや歪みペダルのトーンをかなり絞ることで、ストラトのブリッジピックアップらしからぬ中域が豊かな独特のサウンドを作る。

EJサウンドの中核: トーンコントロール回路

そんな彼のストラトは回路も特徴的だ。下の表はEJのストラトの仕様と一般的なストラトの仕様を比較したものだ。

コンデンサーが一般的なストラトの2倍の容量値のものを使う。 またボリューム・ポット(ポットはポテンショメーターの略)の抵抗値を若干大きめにしている。

最も重要なポイントは、ブリッジ側のピックアップにトーン回路が効く(高音がカットされる)ようにしていることだ。 彼のヴァイオリン・トーンの秘密はこのブリッジ・ピックアップのトーン回路にあると言って良い。

EJ一般的なストラト
コンデンサー0.1 uF0.047 uF
Vol ポット300kΩ250kΩ
Toneポット250kΩ250kΩ
Toneが効くピックアアプネック・ブリッジネック・ミドル

一般的なストラトの回路は以下の通り。ただしブリッジ・ピックアップにトーンが効くようになっている:

一般的なストラトの回路

EJの大きめのコンデンサーとボリューム・ポットがどのような効果があるのかをSPICEで調べてみた。

なお、シミュレーション内容はギターのトーン回路のシミュレーションの回路定数を変更しただけなので、ここでは詳細を省略する。

コンデンサーの影響

まず一般的なストラトのトーン回路とコンデンサーが0.1 uFの場合の周波数特性の比較が下の図だ(クリックすると拡大して表示される):

一般的なストラトのトーン回路とコンデンサーが0.1 uFの場合の周波数特性の比較

トーンのポットを絞っていく(ToneのRが小さくなっていく)とピーク位置が下がってくる。0.1 uFのほうが、その下がりが急になる。つまりトーンの効きが強くなる。 これはコンデンサーの容量値が大きいことから予想されたことだ。

ちなみにトーンのポットが全開(250kΩ)の場合、両者の違いはほとんどない。

ボリューム・ポットの影響

次はボリューム・ポットを300kΩにした影響を調べてみた。

下のグラフは以下の三種類のパラメーター値の周波数特性を同時にプロットしたものだ。トーンが全開の状態である。

  • C = 0.047 uF, Tone pot = 250, Vol pot = 250k
  • C = 0.100 uF, Tone pot = 250, Vol pot = 250k
  • C = 0.100 uF, Tone pot = 250, Vol pot = 300k
三種類のパラメーター値の周波数特性

この三つのうち、

  • C = 0.047 uF, Tone pot = 250, Vol pot = 250k
  • C = 0.100 uF, Tone pot = 250, Vol pot = 250k

のプロットはほとんど重なって違いがない。これは上のコンデンサーの影響を調べたところでも述べた。

そして、ボリューム・ポットが300kΩの場合はピーク位置が若干上にある。つまりトーン全開の時は高音が出やすくなる。 この傾向はEric Johnson Wiring Harness for Fender Stratocaster 300k CTS Pot .1uf Cap 5 Wayでも

The 300k volume pot is slightly brighter than a 250k. This helps balance and bring back some of the highs that are naturally lost by using the .1uf cap. (300kオームのボリュームポットは、250kオームのものよりもやや明るめの音質です。これにより、.1μFのコンデンサを使用することで自然に失われる高音域を補い、バランスを整えることができます。)

と述べている。

どうやら、EJはこれが狙いらしい。 0.1 uFを使ってトーンの効きを強くしたいが、全開時に若干ハイ落ちするのを防ぎたいということだろう。

まとめると、EJ仕様は”トーンを絞るときに深く効く”一方で、”トーン全開時は高音が落ちにくい”という設計になっているのだ。

余談: EJ本の記載について

レジェンダリー・ギタリスト エリック・ジョンソン[増補・改訂版] (YOUNG GUITAR SPECIAL ISSUE)にはEJのストラトのスペックの記述がある。そのなかで、ポットの値が500kΩ、コンデンサーが104 = 0.01 uFの記載があるが、これらは間違いだろう。

コンデンサーは明らかに間違いで104 = 0.1 uFである。

またポットを500kΩにすると全体的にトーンコントロールの効きが弱くなる(ハムバッカー向けの回路に近い)。これは0.1 uFのコンデンサーを使う意味がない。

おわりに

今回の結果からすると、トーンを絞り気味が好みであればEJ回路にするのが良いのだろうか。

通常の回路定数でもトーンをかなり絞れば同様の効果が得られるように思われるが、実際に試して判断するのが良さそうだ。

なおEJファンでなくても、ストラトのブリッジ・ピックアップのトーン回路を有効にするのは超おすすめだ。 音作りの幅が相当に広がる。

ストラトのブリッジ・ピックアップのサウンドが細くて悩んでいて、シングルサイズのハムバッカーに交換することを検討しているなら、まずトーン回路を有効にすることを試して欲しい。 ちなみに、ミドル→ブリッジにトーン回路を変更するのは難しくない。