大部屋エクスタシー ── 上司の視線も怒号も、全部がご褒美

(更新日: 2025年8月27日 )

わが会社人生は大部屋とともに

気づけば私は今日も大部屋の片隅にいる。

なんて私は恵まれた環境で働けるのだろう。感謝のあまり、涙腺だけでなく鼻腔まで崩壊寸前である。

私がどれほど大部屋を愛しているか。私の愛は本物だ。

今日はその「愛の証明」をしてみようと思う。

にぎやか

右隣では誰かがぶっ通し大声でオンライン会議をしている。ずっと電話している同僚もいる。 あちこちから、独り言とタイピングとマウスクリックが鳴り響く。 時折、会議室から怒号が聞こえる。それも心地良いBGMだ。

こんなにぎやかで活気がある場所に座っているだけで「ああ、私は確かに仕事場にいる」と実感できる。

進捗ゼロで給料を貰っても後ろめたさはない。だって大部屋にいることでミッション・コンプリートだから。

秘密がない

大部屋にはプライバシーなどという甘えは存在しない。

ワンフロア全員がオープンソース。PCモニターも表情も、ため息も全部共有財産だ。

仕事中のYouTubeを見れば即バレ。強めの香水はもちろん、貧乏ゆすりですらチャットで通報される。

これこそ「健全な透明性」である。

安上がり

仕切りも個室も不要。つまり会社が社員に使う金を節約できる。これほど崇高なコスト削減はない。

社員が異動になっても簡単だ。どの席も同じだから、ちょいと席を変われば良い。 フレキシブルに人事異動ができる。これこそ最先端のオフィス環境。

すぐに議論ができる

大部屋の真髄は「議論」。誰かが「ちょっといい?」と言った瞬間から国会のようなオープンな議場になる。 周囲に人がいても、オープンな場なのだから許される。どんどん議論しよう。

議論の勝敗はロジックではなく声のデシベルで決まる。

深い議論がしたい?そんなの研究者だけでしょ?

みんな一緒の一体感

「みんなで一緒に勉強しよう」のノリで仕事ができる。ついついサボってしまったり、動画を見てしまう人には心強い職場になる。 何でもみんなと同じでないと安心できない人にはうってつけな職場だ。

そして一体感。息をするタイミングまでシンクロだ。「和を乱すヤツは即排除」。同じ服、同じランチ、同じ表情。

孤独?そんなものは存在しない。強制的に仲間と一心同体。ここに真のチームワークがある。

ワイガヤできる

素晴しいアイディアはいつもワイガヤから生まれる──という神話を信じて今日もワイガヤ。

毎日ワイガヤしていれば、きっとたくさんのアイディアが生まれ、仕事も人生も素晴らしいものになる。 給料も上がり、みんなハッピーだ。

つまり大部屋は幸せへの入口なのだ。みんなで毎日ワイガヤしよう。

話題も無くなったら、天気とプロ野球の話でワイガヤするのだ。 「ワイ」が「猥」のワイガヤも良いだろう。部署によっては“ワイ”が“ワイロ”になる場合も。

見られるのが好き

大部屋は部長席から部屋が全部見渡せるレイアウトだ。学校みたい。

「部長、もっと私を見て」。そんな人に大部屋はうってつけの職場だ。

適度な雑音で効率アップ

適度にザワついた喫茶店やBGMがあると効率がアップすることが知られている。 大部屋ならSpotifyを超える極上のBGMサービスつき。効率アップまちがいなしだ。

健康だってシェアできる

風邪?インフル?ノロ? 大部屋なら誰か一人がかかれば、すぐ全員が流行に乗れる。 予防接種は不要。免疫は試練で鍛えられる。

大部屋はただの職場ではない。社員が体調も共有し、ともに免疫を育てるファームなのだ。 我々は企業牧場の誇り高き家畜。いや社畜。

精神修行できる

大部屋で何が素晴らしいか。

ザワついた環境、隣席の大声の電話や会話、怒号が漏れる会議室、部長の監視の目、背後に立つ上司の気配、こうした環境の中で集中力を高める訓練を積む場であるということだ。

このようなアウェー感MAXな環境下でプレゼン資料を完成できるなら、きみは大部屋マスターだ。 マインドフルネスは、こうした社員にこそ必要なプラクティス。

ポスト・コロナこそ大部屋で働く意義がある

Zoom?Slack?──そんな軟弱ツールは不要。

最強のコラボレーションツールは「隣の人の独り言」。

効率? プライバシー? そんなものよりも大事なのは管理と雑音。

私は大部屋に今後の人生も、そして墓場までも捧げる所存である。