夏目漱石 「こころ」

夏目漱石の「こころ」を久しぶりに読みました(珍しく書店で買いました)。高校の教科書に抜粋が載っていて、その時文庫を買って読んだ覚えがあります。ただ、高校生の私は筋を追うことばかり気にして、あまり内容を読めていない気がしていました。大学生の時にも読み返したのかも知れませんが…。

「わたし」の部分(前半)はすらすら読めますね。「先生」の遺書の部分の後半、「K」が現れたあたりから読むのが苦しくなります。 「先生」が「お嬢さん」をめぐって一人相撲をとって悶々としている場面、「K」の「お嬢さん」への想いの疑念がもたげる場面、「K」に悪意のある言葉を投げつける場面、焦りにかられて求婚する場面、我に返って後ろめたさを抱えてしまう数日間、いい歳をしてどの場面も落ち着いて読めませんでした。私自身の中身は30年経ってもあまり変わっていないようで、我ながら少し残念です(笑)。ただ、「先生」の「若さゆえの誤ち」のようなものは、今の方がよく分かります。

「K」が自殺してからの十字架を背負う日々を思うと、「先生」の人生は何だったのか。「淋しくて」自殺するものなのか。 「明治の精神に殉じる」の「明治の精神」とは何なのか。正直、今でもよく分かりません…。

「透明な文体」と江藤淳が評したように、「こころ」の文章には美しさを幾度となく感じました。高校生の時には分からなかった「文豪」と呼ばれる所以が分かった気がします。「先生」の手紙は、淡々と述べながらも心情は手に取るように察することが出来る、なんとも高度な文学作品と思いました。今までの私は、このような文章の美しさには頓着しなかったのだ、とも思いました。高校生から大学生まで、漱石の小説はかなり読んだのですが…(汗)。他の小説も読み直そうと思います。

解説にあたる部分には、江藤淳が書いた「夏目漱石伝」が載せてあります。江藤淳の名前で別の懐かしさに浸りました。江藤淳は私の大学では江頭先生でしたね。私は学部で江頭先生の人文の授業を受けていました。内容は思い出せませんが、お人柄は何となく覚えています。私が授業を受けた翌年(翌々年)くらいに辞められたようです。

この文庫は、注釈が見開き左ページにあって読みやすいですね。