西村英俊 / 会社は毎日つぶれている

この本は結構前に買ったものだが、あまりちゃんと読んでなかった。残念ながらすでに絶版のようだ。

最近は買い直したFire HD 8上でPerfect Viewerを使うとpdfを読むのが快適であることが分かった。 そんなわけで、過去に自炊した本をせっせとFire HDに移して読んでいる。そのうちの一冊。 特に新幹線の中で読書が進む。

この本の著者は日商岩井とニチメンが経営統合してできた双日のCEO。2002年6月に日商岩井の社長に就任し、統合してできた新会社双日のCEOを務め、ちょうど3年後の2005年6月にCEOを辞任している。

「会社は毎日つぶれている」に込められた意味は、日々会社には問題が起きてほころんでいることを言っている(14ページ)。 社長が「様子見」をすると組織末端では増幅されたゆるみになる。 会社を良くする前に「つぶさない」のが社長の出発点だという姿勢が最初の部分で書かれている。 表紙の「綱渡り」がこの著者の社長業のイメージなのかも知れない。

この本だけでは当時の日商岩井の状況が読み取れないが、Wikipediaによると相当にヤバく存亡の危機だったようだ。 その後徹底的に再建計画を実施した後にさらりとCEOを辞任し、CEOを辞任後の2008年には双日は過去最高の利益を出したという。 (著者は2009年にこの本が出版されて、4年後の2013年に亡くなっている。) かなりの重責だったと推測する。

その経験を踏まえた内容であるのは間違いない。この著者の性格なのか、自慢げだったり独り善がりな記述はないのがこの手の本では珍しいのではないか。 第10章で述べられている任期中の不祥事の処理については、淡々と考え方と実際の行動を振り返り、逆に迫力があった。 著者の経歴や双日の状況に思いを馳せながら読むと、読後にじんわりと感動を覚える。

基本的に社長の心構えを書いている。読む側が社長でなくても、一般的なマネジメントの考え方として参考になる部分はありそうに思う。 「形だけの現場訪問は意味がない」「『大丈夫』報告ほど信用してはいけない」 「歴史が証明する一斉号令の弊害」「時間管理にルーズな日本の組織」などは激しく同意する内容だった(もちろん自分は社長をやったことはないし、やる気もないが…)。

「言いたいことがあれば言ってくれ。聴くから」みたいな態度では、恐らく差し障りのない話しか聴けないのではないか。 問いかけのしかたも工夫が必要だし(あまりに漠然とした質問は、それに応じた漠然とした答えになる)、それなりに関係を構築しないと、肝心なことは誰も話さないと思う。