スキップレベル・インタビュー修行録 〜下々から免許皆伝への道〜

私の会社では「スキップレベル・インタビュー」という、まことにありがたい機会を頂戴することがある。 私ごときがトップ・マネジメント層と直接お話を許される、神々との謁見の時間である。

お忙しい方々なので下々の話などでお耳を汚しては、と思って控えていたが「お前も申せ」とのこと。 恐れながら申し上げた。

しかし私の話が終わるといきなり幕が降りて、ステージは偉い方の独演会に変貌した。 やはり主役は神々。我々はご神託をありがたく賜る存在であった。身の程をわきまえなければ。

下々はこのような貴重な機会を無駄にしてはならない。生き抜く奥義を習得する修行の場として活用するべくまとめてみた。
なお、「息抜く」の間違いでない。

奥義その一: 中身のない話を真剣に聴く秘技 (空虚流忍耐スキルC級ランク)

偉い方のお話は、目新しいことは何もなくビジネス書にの要約かその劣化バージョン。 「ああ、あの本か」などと顔に出してはいけない。
ここで試されるのは、顔の筋肉の柔軟な操作術である。

  • 表情筋を総動員して「へぇ〜」と感服した顔をする
  • 「さぞかし薄ぺらい人生を送ってきたんだろうな」という推察を口角を上げて隠蔽する。
  • 「教訓も含蓄もなし?」がっかりした気持ちを飲み込んで、美味しい料理を満足気に咀嚼するような表情で飾る

これらの秘技で、どんな凡庸な話もありがたくて涙するに違いない。

あなたも(見かけ)傾聴師範の免許を皆伝である。

奥義その二: 無礼講に騙されない秘技 (モブキャラ擬態スキルA級ランク)

主役はトップ・マネジメント=神である。薄っぺらい紙ではない。機嫌を損ねてはいけない。 「スキップレベル」だから率直な物言いが歓迎されるわけでない。

ここで磨くべきは「無難で、意味がありそうなことを言う技術」である。

  • 何かを指摘に対して、返ってくるのは長い言い訳。
    → 「なるほど、ごもっともです」と笑顔で返す。これ一択だ。
  • 「率直な意見を聞きたい」と言われても、裏の意味がある
    → オブラートを50枚重ねて味が分からない飴のような言葉で答える。これこそ秘技である。
  • もしも オンライン会議であるなら
    → 画面では聞いている振りをしつつ、裏で別の仕事をこなすハイブリッド・ワークスタイル

これらの秘技で「あいつは見張る必要がある」とならず「モブキャラ」の評価を勝ち取れる。 ステルス社員師範の免許皆伝は近い。

奥義その三: 空虚な話をスルーしながら、分析する秘技 (イマジナリー・ステップアップスキルS級ランク)

貴重な時間であるから、ただ聞き流すだけではもったいない。 “空虚さ”からも学びとる技術。これを習得する場としようではないか。

彼らがどのように偉くなったのか、言葉の端々から読み解いてくべし。

たとえば──

  • 本を読まない・週刊誌は読む
  • 会話では必ずカタカナ語を織り交ぜる
  • 難しい話・分からない話は途中で遮る
  • クルマとゴルフと酒の話題だけを話す
  • 苦手な人とは話さない

これらを愚直に実践すれば、きっと我々もいつか「偉く」なれるに違いない。 ただし、中身のない話を産み出す力は遺伝の可能性もある。

おわりに: 目指せ免許皆伝

こうしてみると、スキップレベル・インタビューは神々が我々を試している場であったのだ。

我々はこの試練を通じて

  • 奥義その一: 空虚な話を傾聴している風に見せる秘技
  • 奥義その二: 無礼講を空虚な対応で切り抜ける秘技
  • 奥義その三: 空虚の中からも学びとる秘技 を習得するのだ。

これらを修めた暁には、我々は単なる下々の存在から、空虚な達人への免許皆伝を許され、少しだけ神々に近づけるであろう。

次のスキップレベル・インタビューが待ち遠しくなる──そう思えるようなったら免許皆伝は近い。 (※ただし、この修行には大きな精神的ダメージが避けられないことに注意。)