リチウムイオン電池系の学術論文の国別出版数を調べてみました。
ただし Journal of Electrochemical Society 2017年分だけです。 2017年の論文数は312件。日本は19件で国別5位。1位はアメリカ(77件)、2位は中国(44件)、3位はドイツ(29件)。4位はカナダ(23件)。
リチウムイオン電池のシェアと論文数はあまり相関が無さそうです。
データからは読み取れませんが、電池の設計・生産のような泥臭い部分はアジア、材料研究やモデル・シミュレーションなどの研究は欧米が盛ん、なんてことを妄想してしまいます。
というのは冗談としても、一口にリチウムイオン電池に関する研究といっても、材料研究やモデリング・理論、シミュレーションなど幅広い領域のものです。 今回調べた結果は全体像のほんの一つの側面でしかない、ということは確かです。
目次
調べ方
Journal of The Electrochemical Society の searchで “abstract/title” に “lithium ion” で検索しました。
検索結果の筆頭著者のaffiliationを集計しました。
検索結果
年間4件以上発表していた国を一覧にしました。
国 | 論文件数 |
---|---|
USA | 77 |
PRC | 44 |
Germany | 29 |
Canada | 23 |
Japan | 19 |
Korea | 14 |
France | 8 |
Isreal | 6 |
UK | 6 |
Inida | 5 |
Taiwan | 5 |
Italy | 4 |
Sweden | 4 |
日本の発表の内訳
日本の内訳は、京都大学が4件、東京大学、鳥取大学、トヨタ中研、ヤマハ発動機が各2件、その他大学、企業が1件ずつ。
京都大学の発表は小久見先生の系列グループが3件。そのほかは単発的。
リチウムイオン電池の世界シェアってどんな感じか
ちなみにリチウムイオン電池の世界シェアはどんな感じかは下記のページが参考になります。2018年の予想ですが、すべてアジアの会社です。
Lithium ion batteries – main manufacturers 2018 | Statisticパナソニック・サンヨーが33%でトップ。日本勢はGSユアサを合わせて36%。韓国系は合わせて26%。中国系は26%。アジア勢でほぼ三分割しているのが分かります。
リチウムイオン電池の国別シェアと論文の数から言えるのは
量産のリチウムイオン電池と研究成果である論文とのつながりを論じるのは実際には難しいことです。 というのも、研究は新しいことを探索する側面が強いので、すぐに量産につながるとは限らないからです。
それでも、技術的な層の厚さは関係はあると思っています。
日本
リチウムイオン電池シェアが高い日本が論文数ではあまり振るわない。 国際論文誌にあまり出していないということはあり得ますが、どうなのでしょうか。 中国に比べれば英語が得意ではないという背景はありそうです。
日本の大学でリチウムイオン電池に関連する研究室があるのは、パッと思いつくだけでも北から岩手大・東北大・東大・東工大・首都大・早大・三重大・京大・佐賀大など多数あります。それにしては、上記の論文数は少し寂しいと感じます。
アメリカ
リチウムイオン電池業界でシェアのない(というか著名なリチウムイオン電池メーカーがない)アメリカの論文数は圧倒的。 JESはアメリカに本部があるからアメリカの出版が多いのは当たり前かも知れませんが、研究が活発であることは確実でしょう。
中国
中国は日本の倍以上で元気がある印象です
韓国・ドイツ
リチウムイオン電池メーカーがある韓国は14件で6位。化学メーカーがあるドイツが上位なのは頷ける。
カナダ
意外とカナダが上位。これはDahn先生のグループから多数論文が発表されている影響です。
おわりに
もともとアメリカのEV(電気自動車)ベンチャーの人事担当者が「日本にはリチウムイオン電池の研究者が多い」と言っていたので、ホントかなと思って調べてみました。
リチウムイオン電池に関して言うと、見かけ上は論文数と産業の活発さはあまり相関が無さそうです。
注意しておく必要があるのは、リチウムイオン電池関連の研究と一口にいっても、材料研究、モデリング・理論やシミュレーションなど幅広い分野にわたるという点です。
言わずもがなですが、論文の数と質はあまり関係がありません。それぞれの論文の中身は読まないと、質が良いかどうかは判断しづらいでしょう。 まあ、その論文の引用数というのは、一つの目安にはなると思います。