「技術経営の常識のウソ」伊丹敬之・東京理科大MOT研究会編著 – 第1章クローズド・オープン・イノベーションのすすめ

オープン・イノベーションの問題点の分析と、オープン・イノベーションを上手く活用するための方針について述べています。以下はメモと雑感です。

オープン・イノベーションの問題点

  • アイディアや技術の移転

    アイディアや技術といった情報を企業の枠を超えてやり取りする際には、移転するのがモノではなく情報であるがゆえの難しさがある。

    ある情報の背後には、実はその情報に関連した他の情報が膨大に存在しており、それら情報間には何らかのつながりが存在している。そのため、そうした膨大な情報群から特定の情報だけを切り取って別の組織に移転しても、その情報が対価に見合った価値をきちんと発現できるとは限らない。つまり、情報を独立した商品と見立て、価値を保持したまま完全に移転するとか、市場取引を行うとかということは、本来難しいことなのである。

  • 仕事の線引きと競争力

    オープン・イノベーションによる水平分業化で問題となるのは、どの仕事を自社でやって、どの仕事を外部(他社)に任せるかというビジネスシステム上の仕事の線引きと、外部に任せる仕事と自社でやる仕事のインターフェース部分をどう構築するかというインターフェースの設計である。

    仕事の線引きを誤る怖さは、それが長期的な競争力に影響を及ぼすところにある。例えば、製造業のなかには自社製品の製造に関して、製造部門を他社に委託し、設計は自社で行おうとするところがある。この場合、他社と差別化できる「強み」は製品設計にある、という意図なのであろうが、安易に製造部門を切り離してしまうことは、長期的に競争力を失う結果にもなりかねないので、充分な検討が必要である。

    単純に仕事を切り離して外部に任せることを考えるのではなく、ビジネスシステム全体での収益獲得のカギはどこか、外部に任せた場合評価能力をどう維持するかなど、自社の将来像を見据えた上で今何をすべきかを深く考え、決断する必要がある。

  • インターフェースの設計

    自社と他社の仕事のインターフェースをどのように設計するかは、他社との協業のあり方を決めるだけでなく、自社の製品開発の効率性や有効性をも決めることになる。安易な外部調達依存は、将来の競争力を失ったりコスト高を招いたりする恐れもあるので注意が必要である。

  • 収益の配分

    オープン・イノベーションの場に「参画する」と利益が得られると考えるのは早計であり、オープン・イノベーションを「企画する」ことが最終的に利益を得るための要件となる。自社のアイディアや技術をいかに他社に供与して利益を得るか、そればかり考えていたら、ある日気がついたら他社のつくった枠組みのなかで踊らされていた、ということにもなりかねない。いかに他社を巻き込む形でのビジネスモデルを企画し、自らがそれを主導するか、オープン・イノベーション活用の秘訣はここにある。

オープン・イノベーションをうまく利用するためには

自ら周りを巻き込んでオープン・イノベーションを企てること、つまりそのためのビジネスモデルを自ら構築することなのである。

取引相手は市場原理に基づいて適宜選ぶのではなく、ある程度限定的な「顔の見える」メンバーのなかから案件に応じて柔軟に選んで協働していくことが、オープン・イノベーションのもつ本質的な問題点を克服する手立てとなるように思われる。

問題点の分析に比べると少し論理展開がわかりづらい気がします。クローズド・オープン・イノベーションという名前は無理があるように感じました。あまりオープン・イノベーションという単語を意識する必要はないと思いますね。言っていることは至極もっともですが、当たり前過ぎて物足りないのが感想です。

オープン・イノベーションというよりは、共同開発の活動をどう現代的に進歩させるかという風に考える方が、パートナーとの関係構築で間違ったバイアスで進まないためには有効かと。

協業はやっている者の意識が重要です。オープン・イノベーションもビジネス上のツールの一つに過ぎないので、協業している同士でどちらかに甘えがあると関係が歪みます。