プリウスの設計について考えたこと

はじめに

ここで書いていることは個人の考え・感想であって、所属している組織とは関係ない。また特定のメーカーをディスる意図もない。念のため。

YouTubeでプリウスのイケていない設計に関する動画がいくつかある。たとえばこれ:

詳細は動画を見てもらうとして、この話題について2つの観点で考えてみたい。私の独断と偏見なので根本的に間違えているかも知れない。悪しからずお願いしたい。

なぜこのような設計の車が市場に出てしまうのか

まず素朴に思うのが、なぜこのような設計の車が市場に出てしまうのか。結論から言えば、指摘されているポイントが開発要件に含まれなかっただけなのだと思う。

(とても乱暴にまとめると) 通常、車両の仕様・性能目標などから各コンポに要求がブレークダウンされる。その要求に沿うようにコンポ担当が開発し、最終的に社内検証プロセスを通て車両の開発完了となる。要件・法規が満足されれば、開発の仕事は終わりだ。

動画で言及されていた、シフトレバーUIの分かりやすさや後方確認のしやすさ、ハンドルとドライバーシートのセンター・オフセットなどは恐らく要件化されていないと思われる。(何かしらの社内基準や標準はあるかも知れない。なお、この車種の後方視野の悪さはかなり以前から指摘されている。一番新しいプリウスではシフトレバーUIもそのままで、後方だけでなく前方の視野も悪くなっているようだ。)

要件に含まれていなければ、開発で考慮されない。だから、このまま市場に出てきてしまう。

複数の動画で指摘されているくらいだから、イケてない設計に気付いている社内の開発者はいるはずである。しかし、他部門であればなかなか口出ししずらい事情はあるだろう。特にレイアウトに関する変更は車両全体に影響が波及する場合もあり得る。

このクルマの場合は、結果的にコスト、燃費性能やデザインなどがもっとも重視され、ドライバーの誤操作防止(=安全性)、疲れない運転については優先度が低いということになる。あくまで「結果的に」だ。

では、なぜ動画で指摘されていたポイントが要件に含まれていなかったのか。 メーカーを擁護する意図はないが、結局は消費者の大多数が値段、燃費性能やデザイン以外を重視していないからだと思う。

ユーザー(消費者)側の問題

われわれは「多く売れているクルマであれば」「世界トップの販売台数の会社のクルマであれば」きっと大丈夫と、どこかで思っていないだろうか。

プリウスを選ぶ人はどういう人か。恐らく大多数は「よく分からないので」「世界トップの販売台数の会社のクルマだから」「多く売れているから」「道路で多く見掛けるから」「値段が許容範囲だから」「ディーラーのおすすめに従って」買う。

もしくは「カタログ・スペックが良いから」買う。スペックのなかでも燃費性能が一番分かりやすい。一方で安全性能は数値化されていても分かりづらい。だから燃費性能のリッターあたり数kmの違いで選んだりする。燃費性能の数kmの違いが、運転するうえでどれだけ本当に切実であるかを考えずに。

だが、このような態度で良いだろうか。上記動画のようにユーザー視線でイケてない設計のクルマが「よく売れている」わけだ(2024年上半期でプリウスは10位内にランクインしている)。売れているからメーカーも「問題はない」と解釈するのが自然だ。 もっと言うなら、分かりやすい指標でしかユーザーが選んでくれないから、メーカーはその指標の改善に注力せざるを得ない。(ここでメーカーを批判・擁護する意図はない。)

結局のところ、同じ価格帯であれば燃費性能のような分かりやすい指標でのみクルマを評価している消費者が大多数だから、空力・デザインのために視界を悪くするデザイン(Aピラーを倒すなど)を採用したりする。メーカーに「安全への配慮」を期待しようにも限界 はあるというものだ。

その一方で、知らずにとっさの時に誤操作してしまう可能性があるクルマを買ってしまい、そのクルマで事故を起こした場合、被害者・ドライバーが受けるダメージは決して小さくない。酷な言い方だが、売れているクルマ = よく分かっていないユーザーから絶大な支持を集めているクルマを買っても、何の担保にもならないことは分かるだろう。(プリウスを所有している人をディスる意図はない。)

Amazonで売っているバッタもんのガジェットには神経質なのに、クルマのような高額で安全性も関わる商品にはメーカーに全幅の信頼を寄せるのは、バランスを欠いているように思う。これらを同列に並べるのに無理があるの承知だが、バッタもんは騙されて買ってもすぐに分かるだけマシとも言える。事故してから、とっさの時に誤操作してしまう可能性があるクルマだったと知るのでは遅い。クルマこそ自分が正しく選択できているか慎重になる必要があるだろう。買う側の意識が低ければ、それなりの製品ライナップになるのは市場原理として当然だ。

おわりに

「開発者のセンスが云々」という要因もゼロではないと思うが、設計担当者が最初からハンドルとシートのセンターがズレた図面を描くだろうか。車両全体で何かが成立せず、それを成立させるために他部門からの要望も踏まえてそうなった、というのが最もありそうに思われる。つまり、ハンドルとシートのセンターオフセット(ドライバーが感じる違和感)を無くすことよりも重視されるものがあったのではないか。

上記と似ているのか、あるいは似ていないのかも知れない話題に「ダイハツ・ウィンカー」問題がある(プリウスとは関係ない)。こちらはユーザーに不評で、いったん導入された後に一般的なウィンカーの動作に戻されている車種があるようだ(ダイハツ車以外では)。ユーザーに不評であれば仕様が変わる例である。興味があれば検索してみて欲しい。なぜ、こんなウィンカーが採用されるのかは推して知るべし。