篠田 英朗 / ほんとうの憲法─戦後日本憲法学批判 (ちくま新書)

ロシアがウクライナ侵略しているのに、いまだに9条で日本を守れる云々と言っている人もいますね。

そういう人達が自分の信条と、世界中がさんざん「非難」しているのに侵略の攻撃はさっぱり止まっていない現実とを、どのように折り合いをつけるのか期待しています。

そんななかウクライナに降伏しろだの支離滅裂であらさまにロシア寄りな橋下徹が批判していた篠田英朗に興味を持ちました(自身の研究室サイト)。

調べれば憲法の解説の本をいくつか書いている国際政治学の先生。

(橋下徹のtweetは読むに堪えないが…)ちなみに篠田英朗は学生時代からカンボジアでの国連PKOに参加するなどしている。念のため。(経歴Wikipedia)

この本はとてもお薦め。日本の憲法学者は特定の学閥だけが正統とされている模様。だから、この本は一部の人からは大変評判が悪い。 その理由は、その「正統性」が疑わしいとされているから。

前文を素直に読め

ぼくたちが義務教育で教わる憲法は、実際には条文を全部読んだりはしない。この本はまず憲法の前文を読めという。

憲法の前文は、この憲法の「原理と目的」が端的に書かれている。

学校でよく強調される「三大原理」というのがあって、それは「国民主権、基本的人権の尊重、平和主義」なのだが、実は「平和主義」は目的であって原理ではないと指摘している。 ここがまず「へぇー」となる最初のポイントだった。

この本文中では「原理」と「目的」は違うとある。確かにその通りで、原理と目的を正しく区別しなければ、正しく法律を解釈ができない。

9条からみについては

「諸国民との協和」、「自由の恵沢の確保」、そして「戦争の回避」は原理ではなく、目的である。
と書かれていて、まさにこのように考えれば9条の意味はより明確に正しく理解できる。 これは素人目からしても、とても素直な読み方だと思うし、とても分かりやすい。

日本の憲法学のカルマ

しかし日本の憲法学者はそのように素直に読めないらしい。実際、憲法学者の見解がいくつか紹介されているが、非常に分かりづらい。

では、なぜ日本の憲法学はそのように素直に読めないのかが第2章から長く書かれている。

端的に言うと(非常に雑にまとめているし漏れもあるかも)、

  • 大日本帝国憲法はプロイセン、フランスの思想影響が強かったので、イギリス・アメリカ的な法律の考えに立つ日本国憲法も、そのプロイセン・フランス的な法律的な見地で解釈しようとしてきた
  • 大日本帝国憲法から敗戦によって日本国憲法に「変更される」背景について学者的には自尊心を保てる何か都合の良い説明が欲しかった
  • 日本国憲法は押しつけられた憲法と捉えてきた
  • 日本国憲法は国際法よりも上であると思い込んできた
  • 天皇機関説が攻撃された怨念?

などなど、ロジカルではないドロドロした背景があるようです。

サイエンスと違って日本の憲法学は日本国内だけで閉じることが出来るせいなのか、自分達の議論がどれだけ普遍的なのかをまったく気にしない分野なのだな、というのが正直な感想です。(日本国憲法についての国際学会はなさそうだし、英語で論文を書くということも多くなさそう。)

あと学閥というか特定の学派の見解だけが「正統視」されるという非常に閉ざされた分野なのだというのも知れました。 サイエンスでも学閥争い的なものはあるけど、「正統」のような考え方はないですね。たぶん。

おわりに

この本は当然そういうエスタブリッシュメントな憲法学者には受けが悪い。実際Amazonのレビューには全否定的なものが散見します。

では、この著者がこの本で書かれるような視点を持つのはなぜかというと、著者の専門が「平和構築論【国際政治学】」なのだからでしょう。

そもそも憲法で言う平和とは「国際」平和であり、国際というからには国内法だけでなく国際法の視点が不可欠となる。 だから国際法と憲法の関係を素直に捉えて日本国憲法を論ずる、というロジカルなスタンスになるのかな、と思いました。

「平和について考える」とか「憲法について考える」とか、もちろん結構なことだと思います。 諸々考えるまえに、まずは「憲法」について正しく理解するのが大事でしょうね。 この本のタイトルにある「ほんとうの」の意味を噛み締めながら読みました。

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