山下達郎の”独白”の分析

山下達郎“唯一の発信基地”で7分間の独白 松尾潔氏、ジャニーズ問題、忖度の声に持論【コメントほぼ全文掲載】 | ORICON NEWSにラジオ番組での”独白”の全文があるので分析してみる。

自分もたまたま録音しているので確認している。このオリコンのページに掲載された内容はラジオでの発言と相違ない。

これは松尾氏のツイートに端を発した騒ぎへの説明という。

松尾氏のツイートはこれ:

自分は山下達郎に関してはそれほどのファンではない。2枚アルバムを持っている程度。

松尾氏はよく知らないが、ツイートを見る限りでは多分自分があまり好きでない系統の人と推測する。

てな訳で、正直どうでも良いような二人のやりとりなのだが、山下達郎の独白が少し興味深かったので、少しだけ深堀りしてみたくなった。

松尾氏のTwitterアカウントはかなりの数ジャニーズの性加害に関連した内容をツイートしている。

便宜上段落に分けられているが、便利なので参照する際は段落単位で参照している。またスマイルカンパニーは以下ではSCと略す。

“独白”の引用と分析

第2段落 山下達郎の事務所と松尾氏との関係について。

彼から顧問料をいただく形での業務提携でありましたので、雇用関係にあったわけではない。また、彼が所属アーティストであったわけではなく、解雇にはあたりません。 弁護士同士の合意文章も存在しております。 松尾氏との契約終了についてはですね、事務所の社長の判断に委ねる形で行われました。
松尾氏と私は直接話をしておりませんし、私が社長に対して契約終了を促したこともありません。

「事務所の社長の判断」はその通りだろう。 ただSCはもともと山下達郎のマネジメント会社であり、山下達郎がSCに対する発言力をどのくらい持つかを想像すると山下達郎の意思に反することは無いだろう。

そもそも彼とは長い間会っておりません、年にメールが数通という関係です。

淡々と事実を述べているように読める。

しかし、契約期間が15年間にわたった相手に対してはかなり淡白な印象を受ける。「長い間」は具体的にどの期間だろうか。

「スマイルカンパニー契約解除の全真相」弁護士を通じて山下達郎・竹内まりや夫妻の“賛成事実”を確認|日刊ゲンダイDIGITALによれば
1978年に山下達郎のマネージメント会社として始まったSCは、大所帯ではなく、強い営業力を誇るわけでもないが、たいへん居心地のよい事務所だった。ブラックミュージック愛好家同士で10年にわたる交流があった達郎さんに誘われて、ぼくの個人事務所は2009年に業務提携を結んだ。

とある。松尾氏は、もともと山下達郎から誘われたと主張している。この日刊ゲンダイDigitalの記事は2023年7月6日に公開されている。つまり山下達郎のラジオ放送の前だ。

達郎さんは、いい音楽とおいしいワイン、そして往年の優れた日本映画を教えてくれる最高の先輩だった。時にはそれぞれの配偶者をまじえて多くの夜を一緒にくぐり抜けたことは、人生のうつくしい記憶としてこの先も色褪せないだろう。

もちろん一緒に仕事もした。アルバム制作のお手伝い。何回ものラジオ共演。達郎さんが序文を寄せたぼくの音楽エッセイ本を、彼の番組でリスナーにプレゼントしたこともあった。出版パーティーでのスピーチも忘れられないなぁ。

ということで、そこそこ一緒に仕事をしてきた間柄だったとうかがえる。

それに対して、山下達郎によると上に引用した程度の関係性ということになる。

第3段落 松尾氏とSCとの契約終了の原因について。

憶測に基づく一方的な批判をしたことが契約終了の一因となったことは認めますけれど、理由は決してそれだけではありません

松尾氏はSCとは15年も契約してきたプロデューサーとのことだ。その15年の長きに渡った関係を解消したということなので、それなりの理由があると思うのが人情だ。

今回は松尾氏との契約解除には山下達郎も賛同しているということがポイントなので、賛同した理由を知りたいわけだ。 「それだけではない」というなら、それ以外の理由もそれとなく語るほうが話がスムーズだと思う。

しかし以下で分かるように、そうではない。

第4段落 ジャニー氏による性加害問題についての山下達郎の考え。

性加害問題については、今回の一連の報道がはじまるまでは漠然としたうわさでしかなくて、

『うわさでしょ?』と思ってきたのが山下達郎のスタンスだったようだ。

第5段落 ジャニー氏による性加害問題についての山下達郎の立ち位置。

音楽業界の片隅にいる私にジャニーズ事務所の内部事情など、まったく預かり知らぬことですし、まして性加害の事実について、私が知る術まったくありません。

すでに何人か告白や告発もしているのに対して「事実があったかは知らない」というのが山下達郎流。 そりゃあ被害者と加害者以外は事実は知らないでしょうね。

第6段落 ジャニーズとのなれそめと自分の作品の関係。

初代ジャニーズの海外レコーディング作品を聞いて、私はとても感動して、(以下略)
その後もジャニーズに楽曲を提供する中で、 多くの優れた才能と出会い、私自身も作品の幅を大きく広げることのでき、成長させていただきました。

「ジャニーズには仕事をたくさんまわしてもらった」とのことを言いたいように思える。

第7段落 ジャニーズ所属タレントとの関係

KinKi Kidsとの出会いがあって、そこから「硝子の少年」という作品を書くことができて、昨年の「Amazing Love」まで、彼らとの絆はずっと続いております。

長く仕事がもらえているということか。

第8段落 ジャニー氏への尊敬と恩義

私の人生にとって1番大切なことは、ご縁とご恩です。ジャニーさんの育てた数多くのタレントさんたちが、戦後の日本でどれだけの人の心を温め、幸せにし、夢を与えてきたか。

恐らくここがポイントだろう。「一番大切なのは、ご縁とご恩」と言い切っている。 安定しない業界で長く第一線で活躍してきた人ならではの重みのある言葉と言える。

ジャニー氏へのご縁とご恩に反する行為は一番大切なことを毀損することになると考えても良いだろうか。

第9段落 ジャニー氏への尊敬と性加害へにスタンスの説明

ジャニーさんのプロデューサーとしての才能を認めることと、社会的、倫理的な意味での性加害を容認することとは全くの別問題だと考えております。

正論ではあるが、上記のように山下達郎の話はかなりジャニー氏寄りの発言であることは明白だ。

そのうえで性加害については「うわさと思っていた」「事実は知らない」というスタンス。 つまりは「その話はぼくは知らない」と言いたいように見える。

作品に罪はありませんし、タレントさんたちも同様です。繰り返しますが、私は性加害を擁護しているのではありません。 アイドルたちの芸事に対するひたむきな努力を間近で見てきたものとして、彼らに敬意を持って接したいというだけなのです。

ここは意味がよく分かりにくい。 「ジャニーズ事務所への批判が高まっているけど、ぼくはジャニーズ事務所を応援するよ」というメッセージなのだろうか。

第10段落 ジャニーズ事務所のグループの解散などへの言及。

正直残念なのは、例えば、すばらしいグループだったSMAPの皆さんが解散することになったり、最近ではキンプリが分裂してしまったり、あんなに才能を感じるユニットがどうして…と疑問に思います。私には何もわかりませんけれど、とっても残念です。

一番意味が分からないのがこの部分。

それぞれグループが解散は活動休止するのは、それぞれの事情によるのだが…。 ファンなら残念と思うだろうということで、「ジャニーズ・ファンのみなさんとぼくは同じ思いです」をアピールしたかったのだろうか。 (ジャニーズ・ファンでも、性加害の問題に対してはそれぞれの思いがあると思うけどね。)

それともグループが解散してお仕事が減るって意味?さすがに、これは違うかも知れない。

第11段落 性加害の報道のなかでの古株のジャニーズ関係者(元関係者を含む)へのエール。

性加害に対する、さまざまな告発や報道というのが飛び交う今でも、そして彼らの音楽活動に対する、私のこうした気持ちに変わりはありません。
第9段落の内容の繰り返しに感じる。「ジャニーズ大好き」をアピールしているのだろうか。

第12段落 まとめ。

たくさんの方々からいただいたご恩に報いることができるように、私はあくまでミュージシャンという立場からタレントさんたちを応援していこうと思っております。
ま、このような私の姿勢をですね、忖度あるいは長いものに巻かれているとそのように解釈されるのであれば、それでも構いません。 きっとそういう方々には私の音楽は不要でしょう。

まとめ

憶測に基づく一方的な批判をしたことが契約終了の一因となったことは認めますけれど、理由は決してそれだけではありません

と言いながら、後半はジャニー氏・ジャニーズ事務所への尊敬・感謝・応援、ご縁とご恩の話に終止している。 山下達郎にとってジャニー氏・ジャニーズ事務所は非常に重要であることがよく分かる。 そして性加害の問題は「自分は分からない」の立場という主張なのだろう。

SCはもともと山下達郎のマネジメント会社であるから、山下達郎の仕事の障害になりそうなことは排除する力学が作用するのは容易に想像できる。 今回、山下達郎が忖度したというよりはSCの社長がジャニーズ事務所との関係を重視して松尾氏との契約解除に踏み切ったのが本当のところと思われる。 だから山下達郎が「忖度していない」というのは、契約解除に関しては実際そうなのかも知れない。 ただ、今回は言い訳をしたつもりが性加害の問題に関しても露骨にジャニーズ事務所寄りの発言を不用意にしているように思われる。 最後の部分は言わないほうがファンは離れないと思われたが、御齢70歳の大御所としては開き直る気持ちを抑え切れなかったようだ。 ジャニー氏に関する性加害の話は、日本のオールドメディアにおいてはアンタッチャブルな話題なのかも知れないが、今どきはネットで情報を取得できる。 「自分は知らない」という立場がどう映るかに関しては、彼の感覚が時代遅れになっているように感じる(残念ながら)。 全般的に今回の発言は晩節をかなり汚したように思えた。

一方で松尾氏が迂闊だったのは、そういう関係である会社にいながらジャニーズ事務所に批判的なツイートをしてきて、何もないと思い込んでいたふしがあることだ。

全体的にみると「ジャニーズ事務所の影響力はすさまじい」という感想になる。

死してなお性的加害者(一部はペドフィリア的な加害もあったと言われている:日本人が「ジャニーズの夢」から覚めるとき|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト)がいまだに「尊敬」される業界は何なのだろうか。

ミートたけし氏のように「死んでから言うな」という批判はある(【オリラジ中田vs松本人志】茂木健一郎を嫌悪するたけし!禁断のジャニーズ騒動にも触れてしまう!)。 しかし、生きている間はとてもではないが言えないだろう。 いや死んでから言っても批判されるリスクはある。 山下達郎の発言によって、この問題の根深さをまざまざと見せつけられている。

(ミートたけし氏の言い分はこのほかにも、自発的な枕営業と未成年者が意図せずに性暴力を受ける話をごちゃ混ぜに扱うなど適切でないと思う箇所がある。 また、あるポジションを確立した人が法律を守らなくても良いというなら、その人やその人の組織を法律で守るべきではない。)

自分はいわゆるアイドル稼業はピンと来なくて、「キャーキャー」いう人達を理解できていない(アイドルを好きな人達を否定する気持もないが)。 特にジャニーズがすごいとも思えず、思い入れもない。どちらかと言うと「アイドル」の仕事には否定的だ。 だから「ある性加害者はあの業界ではすごい」と言われても、「その業界はすごくヤバい」としか思えない。

不適切な会社は適切になるように行政が指導するべきと考える。ただしPENLIGHTのような活動家のネタにするのは反対だ。

2023年7月23日追記

ジャニー氏の性加害についての歴史は下の動画で確認できる。初代ジャニーズ売り出しのころから悪癖は知られていたようだ。 利害関係が複雑なオールドメディアは触れたくない内容だろうが、メディアの対応が今度どうなるか楽しみではある。 これだけ悪い意味でネットで取り上げられている「ジャニーズ」ブランドは昔ほど強くはないと思う。