2009年12月刊。
2006年から2008年までサッカー日本代表監督を務めたオシム氏の言葉を、代表監督の通訳であった千田氏の視点からまとめた本です。以前に出ている「オシムの言葉」とは別の視点での本です。
この本を読もうと思ったのは、2014年のワールドカップブラジル大会でボスニア・ヘルツェゴビナが初出場を決め、イラン戦でワールドカップ初勝利を挙げたニュースを目にした時です。そう言えば、ボスニア・ヘルツェゴビナはオシム氏の故郷の国だったことを思い出し、またオシム節を読みたくなったのがきっかけです。
千田氏がオシム氏の通訳になったきっかけや、通訳としての失敗や苦労の思い出をはじめとして、練習への考え方、選手の起用の仕方、代表選手への接し方等、身近で見ていた者ならではのエピソードで溢れています。また脳梗塞で倒れた時の状況も生々しく書かれています。
著者のオシム氏への尊敬と愛情がよく伝わる内容です。少しテレ屋なのか茶目っ気があるのか、オシム氏の報道陣への受け答えも楽しく読めました。クレバーな人・成熟した人というのは、こういう人を言うのだな、と考えるとともに、どうすればオシム氏のような指導者になれるのか、という問いにも考えさせられる本でした。
各章の最初に、オシム氏の語録があって、それだけパラパラ読んでも良いです。サッカーに興味がなくても、指導者のあり方の一つとして得ることが多いと思います。
引用メモ
- 「美のために死んでもいい」と考える人びとが存在する余地は、現代のサッカーではますます小さくなっている。個人的 には実に残念なことだが、現代のサッカーはそういう方向になっている。人生もそうではないか。昔の旅行は歩いたり、 汽車に乗ったり、実にのんびりしてたものだった。今はみんな飛行機に乗る。うまく答えられただろうか? (1. 人生 p8)
- いつも怒鳴っていれば、選手はそれに慣れてしまう。タイミングと効果を考える必要がある。毎回怒鳴っていてはダメだ。 (4. コミュニケーション p28)
- リスクを冒さないサッカーは、塩とコショウの入っていないスープのようなものだ。(5. リスク p38)
- 一番大事なのは指導者が自分のチームの選手を尊敬すること。それから相手選手を尊敬することを選手に教えることだ。 (6. 教師 p45)
- システムそのものよりも、チームとしてのインテリジェンスが問題だ。…基礎は個人個人のインテリジェンスだが、サッ カーは11対11のスポーツだ。集団的なインテリジェンスが必要になる。もし、一人だけインテリジェンスのない選手が混 じっていたら、チーム全員が被害をこうむることになる。(7. 知恵 p56)
- イミテーションを繰り返しても、彼らを越えることはできない。日本はコンプレックスから開放されて、自分たちのスト ロングポイントを自覚するべきだ。(9. スタイル p66)
- 私は相手チームによってテーマを変えていた。選手は毎日の少し違った練習をする中で、試合に向けての準備をしていた ことになる。言葉ではなくてトレーニングで選手は対策をしていたことになる。(10. 準備 p74)
- 特別なことは話していない。これまでのステップを積み重ねればよい。ただし、最後の一歩は歩幅が広い。(13. エスプ リ p101)
- オレの現役時代のようなプレーをする奴は即時追放だ。監督になって短い間に哲学が変わった。最初に監督として選手に 接してきがついた。それではチームプレーはできないと。(15. 哲学 p119)
- 勇気を持って挑まないと幸運は訪れない。(17. 勇気 p138)
- 負けた場合にはチームをいじるという原則がサッカーにはある。私はそれと反対のことにトライした。レギュラーの選手 たちにもう一度、チャンスを与えた。私が選んだメンバーがよかったのか悪かったのか、もう一度見たいという考えが方 針としてあった。結果について選手には何も文句は言いたくない。(18. 団結 p146)
- 日本選手に本当に足りなかったのはフィジカルではなく基本技術の方だろう。どんなに厳しいプレッシャーをかけられて も動きながらボールを正確にあやつり、状況に応じて左右どちらのキックでも高低や強弱、長短を自在にけり分けられる ような、本当に試合で使える基本技術のことだ。(19. 個の技術 p158)
- 奇跡といっても、自然に起きるわけではない。奇跡がなぜ起きるのか、プロセスを研究する必要がある。毎日奇跡が起こ るわけではない。奇跡を金で買うこともできない。入念に準備をした上でしか、奇跡は起きない。(26. 開放 p218)
- 日本人の特性なのかもしれないが、誰かが、こうすればいいと言ってくれるのを待っているように見える。自分自身に責 任を持つ、自分で決定を下す能力を身につけるべきた。サッカーはそういうことを反映する。自分で責任を持ってプレー する、自分を頼る。それが私の日本へのメッセージです。(28. 教育 p232)