今から2-3年前まではマスク警察が跋扈していた。 「新型コロナウィルスは飛沫感染だ」という主張でマスク警察が見回っていたのである。
そして、いまだに電車などでは律儀にマスクをしている人がいる、そんな日常である。
ところで、飛沫感染とか空気感染をちゃんと理解している人はどれだけいるのだろうか。自分も理解が浅いので調べてみた。
目次
飛沫感染・空気感染の定義
竹川 暢之氏のエアロゾルと飛沫感染・空気感染から引用すると「粒径 5 μm より大きい液滴状の粒子(飛沫)による感染」,空気感染は「飛沫から水分が蒸発して生成する粒径 5 μm より小さい粒子(飛沫核)による感染」と定義している 1,7)。この区分に従うと飛沫核はエアロゾルの一部であることから,上記定義に基づく空気感染はすべて「エアロゾルを介した」感染である。飛沫感染のうち粒径の比較的小さい側に起因するものもエアロゾルを介した感染である。
なかなか難しいが、(粒径が小さい)飛沫感染・空気感染と定義されているもののいずれも、エアロゾルを介した感染である。 「飛沫感染」「空気感染」という定義で明確に二分されるものでもないということだ。
(なお、真面目な研究者は正確に記述する努力をするために、このような「分かりづらい」表現になりがちである。 煙に巻く意図はなく、これは誠実さの現れであることは理解して欲しい。 逆に、あまりに単純に説明しようとする場合は不正確であったり、間違いが入り込む。 何でも「単純化」して説明する『研究者』には注意するほうが安全だ。)
エアロゾルの定義
同じpdfから引用する:
われわれの周囲にある空間の質量の大部分は気体分子で占められているが,固体・液体の微粒子も定常的に含まれている。これらの微粒子の中には短時間では凝集・落下せずに準安定的に存在するものがある。安定の度合いは粒径および着目する事象の時間・空間スケールに依存する。降水がなければ,粒子の安定度を決めているのは拡散,重力落下,慣性運動である。粒径 0.1–1 μm 程度の粒子は非常に安定であり,拡散,重力落下,慣性運動のいずれも気体分子集団の流れ(気流)に比べれば非常に遅い。もし初期濃度分布が均一であれば,これらの粒子集団は気体分子集団と同じ動きをすると見なしてよい。粒径 10 μm では相対的に重力落下の効果が大きくなるが,やはり気流に比べれば遅い。もし水平速度 1 m s-1 ならば 1.5 m 落下するまでに水平に 500 m 程度移動する計算になる。すなわち,初期濃度分布が均一であれば,通常われわれが活動する範囲では粒径 10 μm 程度の粒子集団もやはり気体分子集団と同じ動きをすると見なしてよい。粒径 100 μm程度になると重力落下速度の効果はかなり顕著になり,水平速度 1 m s-1 ならば 1.5 m 落下するまでに 6 m 程度移動する計算になる。なお,実際の環境では気流が鉛直方向に静穏であることはほとんどなく,熱対流の効果があるため複雑である。このため,上記の数値はあくまで目安(オーダー)として考えて頂きたい。
エアロゾルの定義は空間内に微粒子が準安定的に分散した系である。われわれの周囲にある空間を空気と呼ぶならば,エアロゾル粒子は空気の一部である。前述の通り,粒子の安定度は考えている時間・空間スケールに依存するため,粒径いくつまでがエアロゾル粒子か,という画一的な定義はあまり意味がないが,通例は粒径 1 nm 程度から 100 μm 程度を対象範囲とし 25),明瞭に視認できる塵埃のようなものはエアロゾルには含めない。大気環境モニタリングでは粒径 10 μm 以下を PM10 として定義しており,エアロゾルの粒径区分の 一つの目安になっている(日本では SPM の定義が採用されているが,ここでは詳細は省略する)。この PM10の粒径区分は呼吸器への沈着と深く関係しており,粒径 10 μm 程度以下の粒子は肺胞に到達しうる 25)。ただし,肺胞への沈着効率には強い粒径依存性がある。一方,粒径 10–100 μm 程度の粒子は口腔・鼻腔内には吸引しうるが,肺胞には到達しにくい 25)。
飛沫の定義
WHO 公式文書などでは飛沫と飛沫核の境界を粒径 5 μm としているが,第 3・4 節で紹介する個別の研究事例では必ずしもこの定義に縛られない。すなわち,呼吸器から排出される液滴状の粒子を飛沫とし,飛沫から水分が蒸発して生成する粒子を飛沫核とする。
マスクの効果
一般にフィルターやマスクは粒径 0.1 μm 程度以下の粒子ではブラウン拡散,粒径1 μm 程度以上の粒子では慣性衝突やさえぎりが支配的なメカニズムとなる。その谷間のサブミクロン粒子では粒子除去効率が極小となる特徴が見られる。N95,医療用,布マスクなど種類によって除去効率には違いはあるものの,大まかな特徴は共通している。なお,マスクの素材自体の粒子通過効率以外に,装着隙間からの漏れも重要であることに注意したい 33)。COVID-19問題以前から,マスクが飛沫排出抑制や飛沫取り込み低減に効果があることは実験によって示されている。
飛沫については効果があることは分かっている。
飛沫感染と空気感染は境界があるか
この文献の最も重要なポイントは考察にあると思う。
3.3 節で述べた通り,先行研究で飛沫感染と空気感染の境界とされてきた粒径 5 μm は,「排出直後の」飛沫の平均的な粒径分布と「乾燥した」飛沫核の平均的な粒径分布の谷間に相当するため,この粒径区分で両者を近似的に分類することの一定の理由付けにはなる。一方で,粒子の重力落下速度はシームレスに変化しており,この粒径で明確な線引きがあるわけではない(Fig. 1)。また,3.4 節で述べた通り 10 μm 程度の液滴は湿度変化によってきわめて短時間で縮小する傾向があることにも留意すべきである。すなわち,飛沫に分類 される大きさの粒子も,排出後すぐに飛沫核に分類される大きさの粒子に移行してしまうことが起こりうるため,これらの区別は曖昧になる。実環境では多様な履歴を持つ呼気が混合するために,仮に飛沫・飛沫核を測定できたとしても,明確な二山分布となっているとは限らず,連続的な分布となっている可能性がある。
あくまで個人的見解であるが,飛沫感染という言葉は実体のある物が飛んでくるような動的・具体的な印象を与え,空気感染という言葉は目に見えない何かが自分の周囲に無秩序に広がっているような静的で漠然とした印象を与えるのではないだろうか。これらの言葉の対比によって,両者はかなり異なるもののように扱われる場合があるかもしれないが,現実には空気感染の媒介となる粒子と,飛沫感染の媒介となる粒子とは境界粒径域で相互に重なった不可分なものである。第 2~5 節に示すような過去の文献を調べた範囲では,空気中の含ウイルス粒子の挙動はインフルエンザでもSARS-CoV-2 でも必ずしもわかっていない。さらには,含ウイルス粒子の発生から気道に取り込まれる過程を含めた総合的な伝播効率もわかっていない。これらの知見が不十分な段階では,粒径 5 μm という微妙な境界で区分された飛沫感染と空気感染の相対的重要性を評価することは,少なくともエアロゾル科学の観点からは難しいと考える。感染リスクを一般社会にわかりやすく伝えることは重要であり,そのために飛沫感染や空気感染という用語を便宜的に用いることは必要かもしれない。しかしながら,科学者の立場でエアロゾル,飛沫感染,空気感染に言及する場合には,事象の連続性やグレーな領域の存在を客観的に論ずるべきである。
素人が雑にまとめると、飛沫は排出後に液滴サイズは変化しうるから、粒径などで空気感染と区別をするのは意味がないと言っているように解釈できる。 「空気中の含ウィルス粒子の挙動は分かっていない」とあるから、マスクが含ウィルス粒子空気に対して効果があるかも分からないのではないか。
論文「呼吸器ウイルスの空気感染」
一方で次のような論文もある Chia C. Wang et al. , Airborne transmission of respiratory viruses.Science373,eabd9149(2021).DOI:10.1126/science.abd9149:
アブストラクト:
COVID-19のパンデミックは、呼吸器ウイルスの感染経路に関する我々の理解における重大な知識のギャップを明らかにし、従来の感染経路に関する見解を更新する必要性を明らかにした。 長年の飛沫感染と空気感染の定義は、ウイルスを含んだ呼吸器飛沫やエアロゾルが空気中を移動し、感染に至るメカニズムを説明していない。 本総説では、エアロゾルによる呼吸器ウイルスの伝播に関する現在の証拠について、エアロゾルの生成、輸送、沈着、および伝播様式としての飛沫-スプレー沈着とエアロゾル吸入の相対的な寄与に影響する要因について考察する。 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染の研究によってもたらされたエアロゾル伝播の理解向上は、他の呼吸器系ウイルスの主要な伝播経路の再評価を必要とし、これによって空気感染を減少させるための、より良い情報に基づく管理が可能になる。
論文の冒頭部分から引用する:
呼吸器疾患の蔓延におけるさまざまな感染様式の相対的重要性をめぐる議論は、何世紀にもわたって行われてきた。 20世紀以前は、感染性呼吸器疾患は感染者が放出する「疫病粒子」によって伝播すると考えられていた(11, 12)。 この空気感染という考え方は、1900年代初頭にCharles Chapinによって否定された。Chapinは、呼吸器疾患の主な感染経路は接触感染であり、飛沫感染は接触感染の延長線上にあると主張した(13)。 Chapinは、空気感染に言及することで人々を恐怖に陥れ、衛生習慣を失わせることを懸念した。 Chapinは、近距離での感染を飛沫感染と誤って同一視し、エアロゾル感染も近距離で起こるという事実を無視した。 この根拠のない仮定は疫学研究で広まり(14)、それ以来、呼吸器ウイルス感染を制御するための緩和戦略は、飛沫感染と飛まつ感染を制限することに重点が置かれるようになった(15)。 これらの戦略の一部はエアロゾル感染の抑制にも部分的に有効であるため、その有効性によって飛沫感染が証明されたという誤った結論に至っている。
飛沫感染の優位性が想定されているにもかかわらず、麻疹ウイルス(16~18)、インフルエンザウイルス(19~24)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)(25)、アデノウイルス、エンテロウイルス(29)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)(30、31)など、多くの呼吸器ウイルスの空気感染を支持する確固たる証拠がある、 ヒトライノウイルス(hRV)(9、26-28)、アデノウイルス、エンテロウイルス(29)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)(30、31)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)(32)、SARS-CoV-2(33-36)などである(表1画像ビューアで開きます)。 家庭を対象としたある研究では、A型インフルエンザウイルスの伝播の約半分は空気感染であると推定されている(20)。 ライノウイルスの伝播に関するヒトでのチャレンジ研究では、エアロゾルが支配的な伝播様式である可能性が高いと結論づけている(26)。 ハムスターとフェレットのSARS-CoV-2感染は、直接接触や飛沫感染による寄与を除外するように設計された実験構成で、空気感染することが示されている(33、37、38)。 インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSV、ヒトメタニューモウイルス、hRVに感染した際の呼吸排出物の分析により、様々なサイズのエアロゾル中にウイルスゲノムが存在することが明らかになったが、その量は、大きなエアロゾルよりもむしろ5μm未満のエアロゾル中に最も多く検出された(39)。SARS-CoV-2のRNAが検出され、0.25~4μmを超えるエアロゾルから感染性ウイルスが回収されている(34, 35, 40-44)。 インフルエンザウイルスRNAも、感染者から吐き出された微細なエアロゾル(≤5 μm)と粗いエアロゾル(>5 μm)の両方で検出されており、微細なエアロゾル粒子により多くのウイルスRNAが含まれている(23)。 実験室研究では、エアロゾル化したSARS-CoV-2の半減期は1~3時間であることが判明している(45-47)。 世界保健機関(WHO)と米国疾病予防管理センター(CDC)は、2021年4月と5月に、ウイルスを含んだエアロゾルの吸入が、近距離と遠距離の両方でSARS-CoV-2を広める主な手段であると公式に認めた(48, 49)。
素人目では、これらの主張は上で引用した竹川氏の論文の内容とは矛盾しないと思われる。 エアロゾルを介する感染という点では違いはなく、竹川氏が書いている考察のほうがより正確であるように思われる。
マスクの効果
エアロゾルに対してマスクが効果的なのかについてはStructured AbstractのADAVECESに関連する記載がある:
ウイルスを含んだエアロゾルの輸送は、エアロゾル自体の物理化学的特性と、温度、相対湿度、紫外線、気流、換気などの環境要因に影響される。 ウイルスを含んだエアロゾルを吸入すると、気道のさまざまな部位に沈着する。 大きなエアロゾルは上気道に沈着する傾向がありますが、小さなエアロゾルは肺の肺胞領域の奥深くまで入り込む。 感染に対する換気の強い影響、屋内と屋外での感染の明確な違い、長距離感染、マスクや目の保護具の使用にもかかわらず観察されたSARS-CoV-2の感染、SARS-CoV-2の屋内での高頻度の超拡散現象、動物実験、気流シミュレーションは、空気感染を示す強力で明白な証拠である。
ということで、明確に書いていないが、この論文でもエアロゾルに対してマスクは効果はないと考えているようだ。
エアロゾルはほぼ空気と言ってよいので、空気を通すのであれば、エアロゾルも通してしまう。 エアロゾルを通したくなければ、密封するしかないだろう。 酸素ボンベ使うとかね。会話は無理だから、筆談するとかね。
参考までに当院はマスク着用なしでご来院いただけます。 | にっしん皮フ科・形成外科の文言を引用する:
厚生労働省(国)は昨年からエアロゾル感染を認めています。
エアロゾルに正確な定義はないようですが、分散媒中に微粒子(分散質)が浮かんだ状態を言い、分散媒には空気やガスなどがあり、分散質には液体と固体があり、ミスト、霧・もや、スモッグ、粉塵、粒子状物質(PM2.5、0.1等)、そして、ウイルス、粉塵、花粉、真菌胞子等があげられます。これらの粒子の大きさはマスクの気密性を如何に上げても容易に通過し、またマスクの隙間をきっちり埋めても、エアロゾルの粒子サイズが小さすぎるため、ウイルスは濃度に関わらず通過させてしまいます。また、目や涙道からもウイルスは取り込まれます(実験にて検証済、YouTube投稿済)。また、空気清浄機をいくら高性能にしても、感染した患者様がそこに居る状態でその性能を発揮することは100%不可能です。要するに、エアロゾル感染を認めたということは、新型コロナ感染対策は実質できないということを意味します。