博士号取得者は企業では「使えない」のか

「日本企業では博士号取得者を使えてない」という記事がありました。これについて思うことを書いておきます。

このようなテーマの分析がなされる背景には、企業側と博士号取得者(大学・制度を含む)側の両方に問題があると思っています。

日本企業、博士使いこなせず? 採用増で生産性低下

上記に対してえふしんさんが書いています。大筋で同意ではありますが、自分の体験も含めて考えを残しておこうと思います。

博士号を取るまでの5年をどう社会は挽回させるか?という問題(えふしん) – Yahoo!ニュース

ぶっちゃけ博士号持ちは企業でメリットがあるか

そもそも、企業での博士取得者の扱いはかなりひどいものです。

ぼくは実際に勤めたことがある日本企業2社しか知りませんが、個人的な経験では博士号のメリットほとんどありません。 同期入社では修士卒と同じ扱いで、昇進もほぼ同じです。これは年齢的には昇進が遅くなるので、デメリットですらあります。 それくらい企業では博士卒を相応しく扱えません。

また、世の中ではやっかみも相当あります。博士の肩身が狭いのが日本社会の現実です。

ちなみに、ぼくの今の会社は名刺に「博士」や”Ph. D.” とか大きく印刷することを許可していません。 こんな規則は会社の後進性を晒しているようなものですね。

企業側と博士取得者側の問題

企業側の思惑

企業側は「即戦力が欲しい」に尽きると思っています。だから、専門がマッチすれば良いですし、アンマッチだと「使えない」となるわけです。 えふしんさんが指摘するように「専門性に期待し杉」なのです。

博士号取得者側の思惑

実際に「研究が好き」「実験が好き」な博士取得者は一定数います。 この志向と相関して、思考や行動の原理が研究のためになっている人もよく見ます。 こういう人は無意識に企業活動とのアンマッチを生じさせることがあります。 「面倒くさい人」と企業側が思うのは、こういう人逹の印象が要因かな、と思いますね。

残念ながら「使えない」博士取得者はぼくの周囲も確かに存在します。こういう人逹は大学での専門をずっと引きずっています。つまり、専門分野を変えずにいる人たちなのです。これは傍から見ると柔軟性に欠ける、扱いづらい人に映るのは仕方ないかな、と思います。

どうなるのが良いのか

企業側が対応するべきこと

専門性よりは、専門性を身につける上で必要な素地(ポテンシャル)や学習能力の高さ、基本スペックの高さを活用する思考に変換することが必要です。

そのうえで博士号取得者は相応の扱いをするべきです。一人ひとりに合わせた育成やアサインを考慮するべきです。

専門性は高いので、企業活動する上で必要な分野の幅や視野を広げる育成が必要です。 博士課程に進学している時点で学習能力はそれなりに高い人が多いはずですから、その辺りは信用して新しい仕事を任せれば良いかと。

技術的なこと以外では、学部卒や修士卒と比較してプレゼンやリーダーシップは訓練されている人も多数います。 また、博士論文などで長い文章作成の素地ができていますから、文書作成の訓練などはレベルを考慮するべきでしょう。

博士号取得者・大学側が対応するべきこと

博士課程に進学した人は次のことは考えておくのが大事かなと思います:

専門だけでなく、企業活動や経済性の視点を持つ

企業に就職するのであれば、企業活動や経済性についてよく勉強する必要があります。就職した後でも良いですが、意識はしておく方が良いと思います。就職先を選ぶ際にも役立つでしょう。

多くの教官は企業での経験がないので、これらの点は大学ではなかなか理解できない・習得できないことは認識しておきましょう。

アカデミックな研究がしたければアカデミック・ポジションを

企業で研究職に就いたとしても、それが大学での研究生活と必ずしも同じではないのが現実です。

アカデミックな研究がしたければ、アカデミックなポジションで職を探す方が後々で悩むことはないと思います。 とは言え、アカデミックで研究職を得るのも簡単ではないので、どこかのタイミングで自分の能力を見極める必要はあります。

大学での専門は企業では往々にして活かされない

就職した後で専門分野が活かされる保証はないことを認識するべきです。これは本人以外にも教官もよく認識して、学生に教えておくべきです。

自分の専門しか知らない教官には酷な話ではあります。

おわりに

「使えない」なんて言わせないようにするには、企業にいる博士取得者のみんなで証明するしかないと思っています。

博士課程出身者の強みは「勉強が苦にならない」ことかな、と思います。

ポジションと学歴はあまり関係ないのは真だと思いますが、勉強しない人がポジションに相応しい仕事をできないのも真だと思います。

そういう意味で博士取得者はポテンシャルはいろんな面で高いのだと思って良いです。

要は、本人が企業活動の中で柔軟に対応する気があるか否かだけなのかな、と思います。 企業での博士取得者の課題は、自分の専門を捨てることが出来るかにかかっていると言えます。

(おまけ)プロジェクト・マネジメント能力

プロジェクト・マネジメントの点に関しては、えふしんさんの主張は綺麗に書かれています。 実際、博士課程の学生は主体的に動かないと博士号は取得できないですし、大学も授与するべきではないと思います。 (話しは逸れますが、個人的にはいわゆるペーパードクターはこの点で疑問が残るかな。)

ただ、博士課程でプロジェクト・マネジメント系の能力開発できるか否かは、教官や研究室の雰囲気に依存すると思います。 オーバードクターを生みだす研究室もありますから。オーバードクターは本人のマネジメント能力以外にも教官の考え方も要因の一つでしょう。

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